緩衝溶液とはどのような溶液か?また緩衝溶液ではたらく緩衝作用の原理とはどういったものか酢酸とアンモニアを例に具体的に見ておきましょう。緩衝溶液のpHについても説明を入れておきますので確認しておいて下さい。

緩衝溶液と緩衝作用

純水に強酸である塩酸や強塩基である水酸化ナトリウムなどを少量でも加えるとpHは大きく変化します。ところが、酢酸と酢酸ナトリウムの混合溶液では少量の酸や塩基を加えてもpHはほとんど変化しません。
このように少量の酸や塩基を加えてもpHがほぼ一定に保たれる性質を「緩衝作用」といい、緩衝作用を持つ溶液を「緩衝溶液」といいます。
弱酸とその弱酸の塩や、弱塩基とその弱塩基の塩の混合水溶液は緩衝溶液となります。

酢酸と酢酸ナトリウムの緩衝作用

酢酸(\(\mathrm{CH_3COOH}\))は

 \( \mathrm{CH_3COOH \rightleftharpoons CH_3COO^-+H^+}\)

のように一部が電離し平衡状態となる弱酸です。

ところが酢酸ナトリウム(\(\mathrm{CH_3COONa}\))は完全に電離します。

 \( \mathrm{CH_3COONa \rightarrow CH_3COO^-+Na^+}\)

この酢酸ナトリウムから酢酸イオン(\(\mathrm{CH_3COO^-}\))が多量に生じるので、
酢酸と酢酸ナトリウムの混合溶液では酢酸の平衡が左にかたより、酢酸と酢酸イオンが多量に存在する状態となります。

この混合溶液に酸を加えた場合、

 \( \mathrm{CH_3COO^-+H^+\rightarrow CH_3COOH}\)

となり、それほど水素イオン(\(\mathrm{H^+}\))は増えません。

また、この混合溶液に塩基を加えると、

 \( \mathrm{CH_3COOH+OH^-\rightarrow CH_3COO^-+H_2O}\)

の反応が起こるのでそれほど水酸化物イオン(\(\mathrm{OH^-}\))も増えません。

これが酢酸と酢酸ナトリウム混合水溶液の緩衝作用の原理です。

アンモニアと塩化アンモニウムの緩衝作用

アンモニア(\(\mathrm{NH_3}\))は弱塩基です。
水溶液にすると

 \( \mathrm{NH_3+H_2O\rightleftharpoons NH_4^++OH^-}\)

という電離平衡になります。
これに塩化アンモニウム(\(\mathrm{NH_4Cl}\))を加えると、塩化アンモニウムは完全に電離するので酢酸と酢酸ナトリウムのときと同じように、今度はアンモニウムイオンとアンモニアを多量に含んだ混合水溶液になります。

この混合溶液は緩衝作用を持つようになり、酸を加えても溶液中に多量にあるアンモニアと中和反応をするのでpHはあまり変化しません。

 \( \mathrm{NH_3+H^+ \rightarrow NH_4^+}\)

また、塩基を加えても水溶液中にある多量のアンモニウムイオンと中和反応するのでこれもpHはあまり変化しません。

 \( \mathrm{NH_4^-+OH^- \rightarrow NH_3+H_2O}\)

これがアンモニアと塩化アンモニウムイオンの混合溶液の緩衝作用の原理です。

これらのように緩衝溶液ではpHを変化させる外部からの作用に対して、
弱酸と弱塩基の電離平衡の移動によって、
pHの変化を和らげるはたらきをするということですね。

緩衝溶液のpH

緩衝溶液のpHは弱酸や弱塩基の電離定数から求めることになります。
酢酸の電離平衡は

 \( \mathrm{CH_3COOH \rightleftharpoons CH_3COO^-+H^+}\)

なので電離定数(\(K\mathrm{_a}\))は

 \( \displaystyle K\mathrm{_a=\frac{[CH_3COO^-][H^+]}{[CH_3COOH]}}\)

これからpHを求めるには水素イオン濃度が必要なので

 \( \mathrm{[H^+]}\displaystyle =K\mathrm{_a \times \frac{[CH_3COOH]}{[CH_3COO^-]}}\)

と変形すると、
酢酸と酢酸ナトリウムの緩衝溶液では、
酢酸の電離定数と酢酸と酢酸ナトリウムのモル濃度の比によってpHが決まる、
ということができます。

この緩衝溶液を水で薄めても酢酸イオンと酢酸のモル比は変わらないのでpHは一定となります。

 \(\displaystyle \mathrm{\frac{[CH_3COOH]}{[CH_3COO^-]}}\) の値が水で薄めても変わらない、ということですね。

緩衝溶液についてはpHを求めるよりも先に原理を知っておくべきです。
何故、酸や塩基を加えてもpHがあまり変化しないのか?
というところです。

電離平衡については

⇒ 電離平衡と電離定数(電離度と水素イオン濃度の関係)

で復習しておきましょう。

根本はルシャトリエの原理です。

⇒ ルシャトリエの原理と化学反応の平衡移動

忘れないように確認しておいて下さい。