金属イオンの定性分析として系統分離する方法は、今まで学んできた金属元素の性質を大まかにですが復習することになります。金属元素すべてではありませんが、代表的なイオンを混ぜた溶液を系統分離する手順と操作を示しておきますので覚えて下さい。

金属イオンの系統分析

金属イオンは特定の陰イオンと反応することがありますが、複数の金属イオンを含む水溶液には似た反応をするものもあって1つひとつのイオンを分離するのは難しいです。
だから反応の種類ごとにグループ分けしてから確認する方法がとられます。
このような操作を「分属」といい、グループごとに分けて分析することを「系統分析」といいます。

金属イオンを特定、確認することは「定性分析」といいますがその確認方法の1つです。
ちなみに成分の量的確認は「定量分析」といい、定性分析と合わせて物質の特定方法に用います。

ここでは8つの金属イオンの混合溶液を一般的な方法で系統分析してみます。
(これだけ覚えておけばおおよそ通用すると思いますよ。w)

6属系統分析法

硫化水素を用いて系統分離する方法を6属系統分析法といいます。
分類される沈澱とろ液が第1属~第6属まで分けられますがこれは周期表の族とは関係ありません。

覚えるところは、分離されたイオン名はもちろんですが、そのときの「操作試薬」(分属試薬)もです。
この試薬が問題になることが多いです。
理由も理解しながら覚えると良いですが、出来る人は暗記でもかまいません。笑

8つの金属イオンは

 \( \mathrm{Na^+,Al^{3+},Ca^{2+},Fe^{3+},Cu^{2+},Zn^{2+},Ag^+,Pb^{2+}}\)

さて、何から始めますか?

希塩酸( \(\mathrm{HCl}\) )を加えましょう。
先ずは塩化物イオン( \(\mathrm{Cl^-}\) )で沈澱する金属イオンを取り除きます。

沈澱してろ別されるのは
 \(\mathrm{AgCl\,,\,PbCl_2}\) (いずれも白色沈澱)

これが第1属です。
この白色沈澱に熱水をかけると、ろ液に \(\mathrm{Pb^{2+}}\) が移ります。
残った白色沈澱にアンモニア水を加えて無色になって溶ければ銀イオンの検出となります。

沈澱せずにろ液に溶けているのは

 \( \mathrm{Na^+,Al^{3+},Ca^{2+},Fe^{3+},Cu^{2+},Zn^{2+}}\)

次に酸性のまま硫化水素( \(\mathrm{H_2S}\) )を通じると
硫化物となり沈澱する金属イオンがろ別できます。
 \(\mathrm{CuS}\) (黒色沈澱)

これが第2属です。
この後硫酸を加え溶けたろ液にアンモニア水を過剰に加えると深青色のテトラアンミン銅(Ⅱ)イオンが確認できます。

第1属と第2属は硫化物の溶解度積が非常に小さく、酸性溶液でも硫化物の沈澱ができるグループで、そのうちでも希塩酸でも沈澱が生じるグループを第1属といいます。

希塩酸を加えず硫化水素を通すと \(\mathrm{Ag_2S,PbS}\) も沈澱として生成しますよ。
ちなみに、\(\mathrm{PbCl_2}\) は少し水に溶けるので硫化水素を通じたときにも \(\mathrm{PbS}\) の黒色沈澱が生じていますが、
硫酸を加えた時点で \(\mathrm{PbSO_4}\) の白色沈澱になり銅イオンとは分離できているのです。

残りは

 \( \mathrm{Na^+,Al^{3+},Ca^{2+},Fe^{3+},Zn^{2+}}\)

の5つです。

これらの混合溶液を煮沸して硫化水素を一旦追い出し、
硝酸や過酸化水素を加え、硫化水素で還元された \(\mathrm{Fe^{2+}}\) を \(\mathrm{Fe^{3+}}\) に酸化し直し、
アンモニア水を加えて塩基性( \(\mathrm{OH^-}\) 存在下)にします。
すると、三価の水酸化物が沈澱します。

 \(\mathrm{Al(OH)_3}\) (白色)、\(\mathrm{Fe(OH)_3}\) (赤褐色)
この2つは水酸化ナトリウム水溶液を加えてろ過すると
 \(\mathrm{Al(OH)_3}\) が \(\mathrm{Al(OH)_4^-}\) となり溶けて無色のろ液に移ります。

さて先程のアンモニア水を加えた時点でのろ液

 \( \mathrm{Na^+,Ca^{2+},Zn^{2+}}\)

これに硫化水素を通じると(ろ液は塩基性です。)
 \(\mathrm{ZnS}\) (白色沈澱)
をろ別できます。
このように硫化物の溶解度積が少し大きくて中性か塩基性でなければ硫化物が沈澱しないグループが第3属、第4属で、
塩基性で少量の \(\mathrm{OH^-}\) でも沈澱するような3価の陽イオンを特に第3属といい、
 \(\mathrm{Zn^{2+}}\) のように塩基性で硫化物の沈澱ができるイオンが第4属になります。

残りは2つ

 \( \mathrm{Na^+,Ca^{2+}}\)

いかにもイオン化傾向が大きそうなイオンが残りました。w
第5属と第6属です。

どのような場合にも硫化物が沈澱しないグループで、すべて軽金属のイオンです。
このうちでも炭酸塩が沈澱するアルカリ金属が第5属になります。
マグネシウムはもともとアルカリ土類金属ではありませんが、アンモニウムイオンが多量にあると炭酸マグネシウムは沈澱しないので第6属とします。

この2つのイオン溶液を煮沸後、
炭酸アンモニウム( \(\mathrm{(NH_4)_2CO_3}\) )水溶液を加えると炭酸塩が沈澱します。

 \(\mathrm{CaCO_3}\) (白色沈澱)

これが第5属。
残ったろ液中の \(\mathrm{Na^+}\) は第6属で炎色反応で検出できます。

ここでは必要無いのですが、\(\mathrm{(NH_4)_2CO_3}\) を加える前に塩化アンモニウムを加えておけばマグネシウムイオンがまじった溶液でもマグネシウムの炭酸塩は生じません。

イオンの種類が増えてくれば操作も複雑になります。
なのでここにあげた系統分離の操作ぐらいは覚えておきましょう、ということです。

説明を加えたので少しややこしくなりました。
簡単に整理しておきます。

 「希塩酸」を加えて第1属を分離。
 「酸性のまま硫化水素」を通じて第2属を分離。
硫化水素を追い出し、「硝酸」で酸化し直し、
 「アンモニア水を過剰に」加え、第3属を分離。
 「塩基性の状態で硫化水素」を通じて第4属を分離。
 「炭酸アンモニウム」で炭酸塩として第5属を分離。
残ったろ液は第6属。

今度、表にして貼り付けますのでしばしお待ちを。笑

典型元素と遷移元素のうち

⇒ 典型元素と遷移元素の分類

金属の方が圧倒的に多いです。
教科書で取り扱う金属は多くはありませんが、情報量としてはかなりあります。
それでも広い範囲をまんべんなく、基本から、というのは変わりません。

系統分析は良い復習になると思いますよ。