抗原抗体反応をになう抗体は免疫グロブリンというタンパク質でできています。
抗体の種類は非常に多いですが、共通する構造と反応メカニズムを見ておきましょう。
白血球抗原の遺伝子組合せについて理解すれば臓器移植による拒絶反応の理由もわかるようになります。
抗体の構造
体内に入ると異物として認識される抗原に対抗し排除しようとする抗体は、免疫グロブリンというタンパク質でできています。
体液性免疫において主要なはたらきをする免疫グロブリンは2本の長いH鎖と2本の短いL鎖の合計4本のポリペプチド鎖からできていて、どの抗体も基本的な構造は同じです。
L鎖は「long=長い」のではないか?と疑問に思うかもしれませんが、
Light chain(軽い鎖)なのでL鎖となります。
H鎖はHeavy chainなのでHです。
抗体の構造は、どの抗体もアミノ酸配列が同じ「定常部」と、抗体ごとにアミノ酸配列が違う「可変部」があります。
この可変部が抗原と結合しますので、抗体ごとに決まった抗原と特異的に結合することになります。
これはアミノ酸配列ごとに立体構造が変わってくるからです。
このように抗原と抗体が特異的に結合する反応が「抗原抗体反応」です。
※
抗体に反応し結合する抗原の結合部位を「エピトープ」といいます。
抗体の種類と多様性
抗体産生細胞である1個のB細胞は成熟すると1種類の可変部を持つ抗体しか作らなくなります。
抗原の種類は無数にあるので、抗体となるB細胞も無数に必要となりますが、抗体をつくる遺伝子の数は限られています。
H鎖の可変部分の遺伝子の種類はV遺伝子群、D遺伝子群、J遺伝子群に別れますが、成熟していない未熟なB細胞が分化して成熟したB細胞になるとき、H鎖の可変部分の各遺伝子(V、D、J)群から1個ずつ遺伝子を選択して、連結、再結成して分化したB細胞となります。
この組み合わせの合計は、それぞれの遺伝子群から1個選んでくるという組合せの数だけ存在することになります。
V遺伝子群(50種類)、D遺伝子群(30種類)、J遺伝子群(6種類)以上がそれぞれの遺伝子群であるといわれていますので、
\(\mathrm{50\times 30\times 6=9000}\) 通り以上となります。
また、
L鎖の可変部分の遺伝子群にもV遺伝子群とJ遺伝子群があって、B細胞が分化するときH鎖同様に可変部分が選択、連結、再編成されます。
この組合せは、300以上ありますので、H鎖とL鎖の組合せをざっくり計算しても300万程度はあるということになります。
(V遺伝子の数は1000種類ともいわれるのでもっとあることにあります。)
このように成熟したB細胞は1つの抗体しか作れませんが、
未熟なB細胞が分化するときの遺伝子群の組合せが可能なので、
いろいろな抗体をつくることが可能になるのです。
この仕組みは、ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進先生によって1977年に解明されました。
(ノーベル賞受賞は1987年)
クローン選択説
抗原が侵入し、ヘルパーT細胞が抗原情報を発すると無数の遺伝子の組合せをもつB細胞の中から抗原に適合する特定の抗体をつくる遺伝子の組合せをもつB細胞が選択されます。
その後選択されたB細胞が分裂、増殖し抗体産生細胞(形質細胞)となり、抗体を生産して体液中に放出します。
※
免疫には、もともと体内に備わっていた自然免疫と、生後に生きていく中で獲得して供えたT細胞やB細胞などがつくった獲得免疫がありますが、獲得免疫のうち体液性免疫においてはB細胞からつくった抗体が主なはたらきをしています。
自己・非自己の識別と白血球抗原HLA
MHC抗原(主要組織適合抗原)
細胞膜の表面に存在する糖タンパク質をMHC抗原(主要組織適合抗原)といいます。
MHC抗原は適合性複合体とも呼ばれます。
T細胞はその表面のT細胞受容体「TCR」(T細胞レセプター)でMHC抗原を特定基に認識し、自己か非自己かを識別します。
非自己抗原を認識したT細胞はサイトカインを放出し、結果ヘルパーT細胞やキラーT細胞が増殖します。
これらの細胞のはたらきで非自己抗原を持つ組織や臓器は攻撃を受けることになります。
MHC抗原が違う組織や臓器などを移植するとT細胞がTCRによって非自己と認識するので拒絶反応が起こるのです。
ヒトの白血球抗原(HLA)
種としてのヒトのMHCはHLA(ヒト白血球抗原)と呼ばれます。
HLAは複数の遺伝子の組合せでつくられていて、それぞれのHLA遺伝子は複数の対立遺伝子が存在するのでHLA遺伝子の組合せは無数にあります。
そのためHLAが他人と一致する確率は低いので、他人からの臓器移植では高い確率で拒絶反応が起こることになるのです。
HLA遺伝子の遺伝子座は近接しているので遺伝子間で組み替えは起こらないと考えると、
父親がA-A’の対、母親がB-B’の対を遺伝子に持っている場合、
子どもはA-B、A-B’、A’-B、A’-B’のどれかをHLA遺伝子の対とします。
なので同じ両親から生まれる子ども間では、
\(\displaystyle \frac{1}{2}\times \frac{1}{2}=\frac{1}{4}\)
の確率で一致することになり、これは親子鑑定にも利用されます。
ここまでをまとめると、
抗体は免疫グロブリンというタンパク質でできていて、定常部と可変部がある。
可変部の遺伝子の組合せがたくさんあるので抗体も多種つくることができる。
T細胞がTCRによって非自己を認識し拒絶反応が起こる。
ということですね。
これらを考えていくのに欠かせないのは
遺伝子間での遺伝子組合せについては改めて説明することになりますが、
抗体の可変部については大まかにでも理解しておきましょう。