フェノールはベンゼン環を持っているので付加反応ではなく置換反応を起こしやすく、ヒドロキシ基がついていることでベンゼンよりは反応性は大きくなっています。その理由とフェノールの製法のいくつかをクメン法やアルカリ融解を含め見ておきましょう。
フェノールの反応と性質
フェノールはベンゼン環にヒドロキシ基(\(\mathrm{OH^-}\))が置換した構造をしていて「石炭酸」とも呼ばれ、
特有の臭いをもつ無色の固体(結晶)ですが水分を含むと融点が下がり液体になります。
電子供与性のヒドロキシ基が結合していることでベンゼン環全体の電子密度が高くなっていて、
酸化されやすくなっているのでベンゼンよりも反応性が大きくなっているのです。
殺菌作用は強いですが皮膚にダメージを与えるので取り扱いには注意が必要です。
フェノールの置換反応
フェノールはベンゼンよりも反応性は高く、\(o-,p-\) 配向性を示します。
(\(m-\)位より\(o-,p-\)位につきやすいということです。)
混酸(膿硝酸と濃硫酸の混合液)を加えて加熱するとニトロ化されてピクリン酸を生じます。
ピクリン酸は2,4,6-トリニトロフェノールのことで、黄色の結晶で水に溶けて酸性を示します。
爆発生を持つのも特徴の1つです。
臭素水を十分に加えると2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈澱を生じます。
この反応はフェノールの検出と定量に利用されます。
フェノールの製法
フェノールの製造法は主に次の3つですが日本ではフェノールのすべてがクメン法でつくられています。
クメン法
ベンゼンとプロピレン(プロペン)を触媒存在下で反応させクメンをつくり、
\( \mathrm{C_6H_6}\,+\,\mathrm{CH_2=CHCH_3}\, \rightarrow{\mathrm{H_2SO_4,AlCl_3}}\,\mathrm{C_6H_5CH(CH_3)_2}\)
酸素で酸化するとクメンヒドロキシペルオキシドという化合物が生成します。
\( \mathrm{C_6H_5CH(CH_3)_2}\, \rightarrow{\mathrm{O_2}}\,\mathrm{C_6H_5C(CH_3)_2-O-OH}\)
これを希硫酸で分解するとフェノールとアセトンが生成します。
\( \mathrm{C_6H_5C(CH_3)_2-O-OH}\, \rightarrow{\mathrm{H_2SO_4}}\,\mathrm{C_6H_5OH}\,+\,\mathrm{(CH_3)_2CO}\)
この製造方法をクメン法といいます。
ベンゼンスルホン酸のアルカリ融解
ベンゼンをスルホン化して得られるベンゼンスルホン酸を、
\( \mathrm{C_6H_6}\,\rightarrow{\mathrm{H_2SO_4}}\, \mathrm{C_6H_5SO_3H}\)
水酸化ナトリウム水溶液で中和してベンゼンスルホン酸ナトリウムとします。
\( \mathrm{C_6H_5SO_3H}\,\rightarrow{\mathrm{NaOHaq}}\,\mathrm{C_6H_5SO_3Na}\)
これに固体の水酸化ナトリウムを加えて300℃の高温で融解状態にして反応させるとナトリウムフェノキシドとなり、
\( \mathrm{C_6H_5SO_3Na}\,\rightarrow{\mathrm{NaOH(S)}}\,\mathrm{C_6H_5ONa}\)
弱酸を加えるとフェノールが遊離します。
\( \mathrm{C_6H_5ONa}\,\rightarrow[\mathrm{H_2O}]{\mathrm{CO_2}}\, \mathrm{C_6H_5OH}\)
このように水酸化ナトリウムのような塩基の固体と、
高温の融解状態で反応させる操作を「アルカリ融解」といいます。
クロロベンゼンの加水分解
ベンゼンに塩化鉄を触媒として塩素を通じるとクロロベンゼンが生成します。
\( \mathrm{C_6H_6}\,\rightarrow{\mathrm{FeCl_3,Cl_2}}\,\mathrm{C_6H_5Cl}\)
これを高温・高圧の条件で水酸化ナトリウム水溶液と反応させてナトリウムフェノキシドとし、
\( \mathrm{C_6H_5Cl}\,\rightarrow{\mathrm{NaOHaq}}\,\mathrm{C_6H_5ONa}\)
炭酸ガスを吹き込み酸性にするとフェノールが遊離ます。
\( \mathrm{C_6H_5ONa}\, \rightarrow{\mathrm{CO_2}}\,\mathrm{C_6H_5OH}\)
ベンゼンスルホン酸ナトリウムのようにアルカリ融解でも良いように思えますが、
クロロベンゼンは300℃まで高温にすると気化してしまうのでアルカリ融解はできません。
今では、少なくとも日本では、フェノールの製造方法はクメン法だけなのでクメン法を覚えておけば良いですが、理論的にはいろいろな製法がありますのでアルカリ融解と加水分解の方法も覚えておくと良いかもしれません。
フェノールはアルコールと共通点もありますが違う性質も持っています。
を参考に確認しておいてくださいね。