電気分解の応用範囲は広いです。ここでは銅の電解精錬と製錬の違いと電気分解を利用した水酸化ナトリウムの工業的製法について書いておきます。電気分解を利用すると純度の高い金属が得られるという見本となります。副産物も良い物がとれますよ。

銅の製錬

この「製錬」は電解「精錬」とは違いますので注意してください。
製錬によって先ずは純度の少し低い銅を生成させます。

黄銅鉱を主に含んでいる鉱石を石灰石やコークスと加熱すると、
硫化銅(Ⅰ)(\(\mathrm {Cu_2SO_4}\))ができます。
この硫化銅を燃焼させると約99%銅を含む粗銅ができます。
ここまでを銅の製錬といます。

この粗銅を99.99%まで純度を高めるのが銅の電解精錬です。

銅の電解精錬

電気分解を利用すると不純物を含んだ金属から純度の高い金属を得ることができます。
これを電解精錬といいます。

銅の電解精錬は、製錬によって得られた不純物を含んだ粗銅を電気分解を利用して純度の高い銅に変えることです。
不純物を含んだ銅は電気伝導度が低いため伝導材料として使用できません。
しかし、この電解精錬によって電動材料として適した材料に変えることが可能なのです。

銅鉱石の製錬で得られた粗銅を陽極に、純銅を陰極に、
硫酸酸性の硫化銅(Ⅱ)(\(\mathrm {CuSO_4}\))水溶液を電解液とした電気分解を行うと

 陽極: \(\mathrm {Cu} → \mathrm {Cu^{2+}} + 2 \mathrm e^-\)
 陰極: \(\mathrm {Cu^{2+}} + 2\mathrm e^- → \mathrm {Cu}\)

の反応が起こります。
要は銅イオン(\(\mathrm {Cu^{2+}}\))が陽極から陰極に移動するということです。

ここで気をつけて見て欲しいのは陽極から出た銅イオンは元が粗銅であるということ。
そして陰極に出てきた銅は純銅であることです。


この銅の電解精錬を低い電圧で行うことで、
粗銅中に含まれる銅よりイオン化傾向の低い金属はイオン化せずに、
単体粒子のまま極板からはがれ落ちて陽極の下にたまります。
これを陽極泥といいます。
この陽極泥には銀(\(\mathrm {Ag}\))や金(\(\mathrm {Au}\))を含んでいるので銅の電解精錬の副産物として貴重です。

粗銅に含まれる銅よりイオン化傾向の大きい金属は、
溶け出しはしますが濃度が低く電圧が低いので陰極に析出しません。
だからこの電気分解で陰極に純度の高い銅が得られる訳ですね。

水酸化ナトリウムの工業的製法

水酸化ナトリウムの製法には、
 隔膜法水銀法イオン交換膜法
とがあります。
現在では効率と安全性からイオン交換膜法が工業的に使われているので簡単にですが説明を入れておきます。

陽極に炭素、陰極に鉄、陽イオンだけを通す陽イオン交換膜を角膜に用い電気分解すると、
 陽極: \(2 \mathrm {Cl^-} → 2 \mathrm e^- + \mathrm {Cl_2}\)
 陰極: \(2 \mathrm {H_2O} + 2 \mathrm e^- → 2\mathrm {OH^-} + \mathrm {H_2}\)
の反応が起こります。
このとき、
 陽極ではナトリウムイオン(\(\mathrm{Na^+}\))の濃度が高くなり、
 陰極では水酸化物イオン(\(\mathrm {OH^-}\))の濃度が高くなります。
ところが陽イオン交換膜が間にあることで、
陽極で濃度が高くなったナトリウムイオン(\(\mathrm{Na^+}\))は陰極へ移動できますが、
水酸化物イオン(\(\mathrm {OH^-}\))は陰極にとどまることになり、
陰極付近では高濃度の水酸化ナトリウムが得られることになります。

この陽イオン交換膜を用いた水酸化ナトリウムの工業的製法をイオン交換膜法というのです。

物質の工業的な製法は、私たちの生活に必要なほど大量に生成させるには重要な役割を持っています。
現在では安全で効率の良い、廃棄物も害の少ない方法がいろいろと発明されています。

化学の発展とはそういうことじゃないのでしょうか?

「基礎化学」の要点としてはここで一旦終わりとしますが、
化学を勉強する際にも、視点を変えてもう一度見直してみてください。

基礎化学は

⇒ 純物質と混合物の区別

から始まりました。