芳香族カルボン酸とはベンゼン環にカルボキシ基がついている化合物の総称です。いろいろとありますが安息香酸、フタル酸、サリチル酸について製法と性質を見ておきましょう。慣用名なので覚えておかないと意味が分かりませんよ。

安息香酸

ベンゼン環の炭素にカルボキシ基が直接結合した構造をしています。

 安息香酸 \(\mathrm{C_6H_5\color{red}{COOH}}\)

白色の結晶で冷水には溶けにくく、熱水にはかなり溶けます。
酢酸と同じくらいの酸性を示し、水酸化ナトリウム水溶液とは塩をつくり溶けます

 \(\mathrm{C_6H_5COOH}\,+\,\mathrm{NaOH}\,\rightarrow \,\mathrm{\color{red}{C_6H_5COONa}}\,+\, \mathrm{H_2O}\)

安息香酸の製法

トルエンを触媒を用いて空気酸化するか、過マンガン酸カリウムや二クロム酸カリウムで酸化するとベンズアルデヒドを経て安息香酸が得られます。

 \( \mathrm{C_6H_5CH_3}\,\rightarrow \,\mathrm{C_6H_5CHO}\, \rightarrow \,\mathrm{C_6H_5COOH}\)

benzoicasid
細菌やカビなどの発育を抑えるので防腐剤に使われる他、医薬品、染料、香料などの原料として様々な用途があります。

フタル酸

ベンゼン環にカルボキシ基が2つ結合した構造をしています。
単にフタル酸と呼んでいるのは \(o-\mathrm{C_6H_4(COOH)_2}\) のことで安息香酸のオルト位にカルボキシ基がもう一つついた化合物です。

フタル酸の製法

フタル酸は \(o-\)キシレン(\(o-\mathrm{C_6H_4(CH_3)_2}\))を酸化することで得られます。

 \(o-\mathrm{C_6H_4(\color{green}{CH_3})_2}\,\rightarrow \, o-\mathrm{C_6H_4(\color{red}{COOH})_2}\)

ちなみに安息香酸のメタ位にカルボキシ基が結合したイソフタル酸は\(\,m-\)キシレンを酸化して得られます。

 \(p-\)キシレンを酸化するとテレフタル酸になります。
futaru
フタル酸は2つのカルボキシ基が同じ平面上で
しかも隣り合って近くにあるので、
加熱すると容易に脱水反応が起こり無水フタル酸になります。

また、ナフタレンを酸化バナジウム\(\,\mathrm{(V_2O_5)}\,\)を触媒として、
高温で空気中酸化しても無水フタル酸が得られます。
musuifutaru

サリチル酸

フェノールの\(\,o-\,\)位にカルボキシ基が配位した化合物をサリチル酸といいます。

 \(o-\mathrm{C_6H_4(\color{blue}{OH})\color{red}{COOH}}\)

無色の針状結晶で、水に少しだけ溶けて弱い酸性を示します。
温水にはかなり溶けます。
カルボキシ基とヒドロキシ基の両方を持つので、カルボン酸とフェノール類の両方の性質を持っています。

サリチル酸の製法

フェノールを水酸化ナトリウム水溶液でナトリウムフェノキシドとし、

 \( \mathrm{C_6H_5OH}\,+\,\mathrm{NaOH}\rightarrow\,\mathrm{C_6H_5ONa}\)

高温・高圧で \(\mathrm{CO_2}\) を作用させるとサリチル酸ナトリウムとなり、

 \( \mathrm{C_6H_5ONa}\,\overset{\mathrm{CO_2}}{\longrightarrow}\, o-\mathrm{C_6H_4(OH)COONa}\)

硫酸を加えてサリチル酸を遊離します。

 \( o-\mathrm{C_6H_4(OH)COONa}\,\overset{\mathrm{\mathrm{H^+}}}{\longrightarrow}\, o-\mathrm{C_6H_4(OH)COOH}\)
コルベ・シュミット反応

サリチル酸はフェノール類としての反応とカルボン酸としての反応の両方をします。

カルボン酸として反応する場合

サリチル酸に触媒としての濃硫酸とメタノールを加え加熱するとカルボキシ基とメタノールが反応してエステル化が起こります。
このときできるエステルがサリチル酸メチルです。

 \( \mathrm{C_6H_4(OH)COOH}\,+\,\mathrm{CH_3OH}\,\\
\hspace{10pt} \rightarrow\,\mathrm{C_6H_4(OH)COOCH_3H}\,+\,\mathrm{H_2O}\)

フェノール類として反応する場合

サリチル酸と無水酢酸とともに加熱するとヒドロキシ基と無水酢酸が反応してアセチル化が起こります。
(アセチル基 \(\mathrm{CH_3CO-}\) を持つようになる反応をアセチル化といいます。)
このときできるのがアセチルサリチル酸です。

 \( \mathrm{C_6H_4(OH)COOH}\,+\,\mathrm{(CH_3CO)_2O}\,\\
\hspace{10pt}\rightarrow\, \mathrm{C_6H_4(OCOCH_3)COOH}\)

saritiru
サリチル酸メチルは消炎・鎮痛剤としてのはたらきがあり、アセチルサリチル酸には解熱作用があります。

名前もそうですが、ヒドロキシ基が反応するのか、カルボキシ基が反応するのかで変わりますので名前と一緒に反応も覚えておくと良いでしょう。

芳香族のカルボン酸も脂肪族と同じ性質を示します。

⇒ カルボン酸の性質と種類 マレイン酸とフマル酸

でカルボン酸の性質は確認しておいてくださいね。