浸透圧の主役は物質量ではなく圧力なので単位はモルではありません。
化学の計算問題では通常は等しい物質量について計算式を立てていくのですが、
ここでは例外的に解法を教科書などのように状態方程式を利用した普通の解法に変えて説明します。
浸透圧を求める公式を導き出して、問題を少し解いておきましょう。
浸透圧とは
濃度の違う溶液をセロハンなどの半透膜で仕切ると、濃度の薄い側の溶媒が濃度の濃い方に移ろうとします。
このとき生じる圧力を「浸透圧」といいます。
希薄溶液では浸透圧 \(P\) は溶媒や溶質の種類に無関係で、
溶液の体積モル濃度 \(C\) と絶対温度 \(T\) に比例します。
こちらでも説明してありますので参考にして下さい。
⇒ 浸透圧の計算式とファントホッフの法則
沸点上昇や凝固点降下のときと同様にイオンなどの総粒子数に比例するので電解質は浸透圧が大きくなりやすいです。
浸透圧を求める公式
浸透圧 \(P\) はモル濃度と絶対温度に比例するので \(\displaystyle \frac{P}{CT}=k\)
変形して \(P=C\cdot k\cdot T\) ・・・①
※
浸透圧 \(P\) は \(\Pi\) と表されることもありますが、どちらでもかまいません。
また、溶液の体積を \(V\)(L)、溶質の物質量を \(n\) とするとモル濃度は
\( C=\displaystyle \frac{n}{V}\)
なのでこれを②に代入すると
\( P=\displaystyle \frac{n}{V}\cdot k\cdot T\)
すなわち \(PV=n\cdot k\cdot T\)
この比例定数 \(k\) の値は気体の状態方程式における気体定数 \(R\) に等しいので
\(\color{red}{P=CRT}\) または \(\color{red}{PV=nRT}\) が公式として得られます。
\(PV=nRT\) から \(\displaystyle n=\frac{PV}{RT}\)
とすることもできるので物質量の等式としてつなげることができそうですが、意味がとりにくいのでやりません。
浸透圧は圧力なので単位は \(\mathrm{Pa}\) です。
気体定数 \(R\) は問題に与えられると思いますが、
\( R=8.3\times10^3\)
単位はちょっとややこしくて
\( \mathrm{Pa\cdot L/(mol\cdot K)}\)
となりますが \(PV=nRT\) に単位だけを入れて処理すれば出てきます。
練習問題と解説
前にも書いていますがここでは物質量につなげる公式を利用した解き方はしません。
普通に教科書や問題集にある解き方をしますので問題集などを参考に演習してくれればいいですよ。
0.1nol/Lの尿素水溶液の27℃における浸透圧を求めよ。
気体定数は \(8.3\times10^3 \mathrm{Pa\cdot L/(K\cdot mol)}\) とする。
浸透圧の公式を思い出せば代入するだけです。
浸透圧の公式は元は理想気体の状態方程式と同じ形なので覚えやすいと思います。
モル濃度がわかる場合、公式は \(P=CRT\) を使えばいいので
\( P=0.1\times 8.3\times 10^3 \times (273+27)=2.49\times10^5\mathrm{(Pa)}\)
溶液10L中に尿素が120g溶けているとき、27℃における浸透圧を求めよ。
気体定数は \(8.3\times10^3 \mathrm{Pa\cdot L/(K\cdot mol)}\) とする。
\( \mathrm{(NH_2)_2CO=60}\)
これは試験会場でのことも考えて2つ解法を紹介しますが、同じことです。
先ずは状態方程式と方程式を利用します。
求める浸透圧を \(x\) とすると
\( x\times 10=\displaystyle \frac{120}{60}\times 8.3\times10^3 \times (273+27)\)
これを解いて \(x=4.98\times 10^5\mathrm{(Pa)}\)
またはモル濃度を求めます。
\( C=\displaystyle \frac{n}{V}=\displaystyle \frac{w}{M}\times \displaystyle \frac{1}{V}=\displaystyle \frac{120}{60}\times \displaystyle \frac{1}{10}\) (mol/L)
これをもう一つの浸透圧の公式に代入すると
\( P=CRT=\displaystyle \frac{120}{60}\times \displaystyle \frac{1}{10}\times 8.3\times 10^3\times (273+27)\)
これを計算しても同じ答えが得られます。
気をつけておかなければならないのは、気体定数は問題冊子の1番最初に書いてあって問題にはないときがあることと、温度は絶対温度であることです。
絶対温度は、温度が \(t\) ℃のときは \(T=273+t\)(K)となります。
気体定数 \(8.3\times 10^3\) は覚えておくと良いです。
27℃で0.10mol/L尿酸水溶液と同じ大きさの浸透圧を示す塩化カルシウム水溶液がある。
この溶液100mL中には何gの塩化カルシウムが含まれているか求めよ。
\(\mathrm{CaCl_2=111}\)
等しいのは浸透圧ですが、電解質は電離後のイオンの総数に比例して浸透圧が発生することに注意しておきましょう。
溶質の総粒子が等しいときに浸透圧は等しくなります。
塩化カルシウムは
\( \mathrm{CaCl_2 \rightarrow Ca^{2+}+2Cl^-}\)
と電離するので塩化カルシウムの物質量の3倍のイオン粒子がありますね。
このことを考慮して方程式を立ててみましょう。
27℃で0.10mol/L尿酸水溶液の浸透圧は
\( P=0.1\times R\times T\) ・・・①
求める塩化カルシウムの質量を \(x\) とすると電離した後の総粒子のモル濃度は
\( C=\displaystyle \frac{x}{111}\times 3\times \displaystyle \frac{1000}{100}\)
なので塩化カルシウム水溶液の浸透圧は
\(\displaystyle P=\frac{x}{111}\times 3\times \frac{1000}{100}\times R\times T\) ・・・②
①と②は等しいので
\( 0.1\times R\times T=\displaystyle \frac{x}{111}\times 3\times \displaystyle \frac{1000}{100}\times R\times T\)
これを解いて \(x=0.37\) (g)
途中で気体定数や絶対温度を具体的に代入していませんが同じ値なので消えるからです。
代入してももちろんかまいませんよ。
塩化カルシウムが電離して総粒子(物質量)が3倍になることがわかれば、物質量からだけでも答えは出せます。
\( n=\displaystyle \frac{w}{M}=C\times \displaystyle \frac{v}{1000}\)
尿酸水溶液の濃度が 0.1 mol/Lなので
\( \displaystyle \frac{x}{111}\times 3=0.1\times \displaystyle \frac{100}{1000}\)
これから同じ答えが出ます。
次はちょっと圧力の単位を変えて問題を出してみます。
ただ、公式に代入するときは \(\mathrm{Pa}\) に換算しなくてはなりません。
水 1 Lに、ある非電解質の物質を 1.84 g溶かした溶液の浸透圧は 27 ℃のときに 56 cmHgであった。
この非電解質の分子量を求めよ。
大気圧を \(\mathrm{1.0\times 10^5Pa}\)、
気体定数を \(8.3\times 10^3\mathrm{Pa\cdot L/(K\cdot mol)}\) とする。
最初に説明しておかなければならないのが水銀柱による圧力でしょう。
問題の中で定義されるかもしれませんがあまり見なくなった圧力なので換算できるようになっておいてください。
圧力の単位は \(\mathrm{Pa}\) が使われるのが普通ですが、「mmHg」という単位もあります。
1気圧 \(\mathrm{760mmHg}\) です。
浸透圧の公式や気体の状態方程式に使う場合は気体定数 \(R=8.3\times 10^3\) という数値は、
「\(\mathrm{Pa}\)」を利用したものなので換算しておく必要があるのです。
どちらの単位も「0」が同じ圧力になるので、数値に比例します。
\( \mathrm{1atm=760mmHg=1.013\times 10^5Pa}\)
一応教科書には書いているので確認しておいてください。
計算問題では \(\mathrm{1atm=760mmHg=1.0\times 10^5Pa}\) とされることが多いです。
比例関係なので換算は
\( \mathrm{56cmHg=560mmHg \\ \\
=\displaystyle \frac{560}{760}\times 1.0\times 10^5Pa}\)
とすればいいだけなのですが、慣れていないと圧力が水銀柱で表された瞬間にあきらめる人がいますので覚えておきましょう。
この問題では \(\mathrm{760mmHg=1.0\times 10^5Pa}\) としていますので計算が少し楽です。
圧力の単位換算は終わっています。
\( \mathrm{760mmHg=1.0\times 10^5Pa}\)
なので圧力 \(P\) は
\( P=\mathrm{560mmHg=\displaystyle \frac{560}{760}\times 1.0\times 10^5Pa}\)
いつものようにまだ計算はしなくて良いですよ。
求める分子量を \(x\) として
\( PV=nRT=\displaystyle \frac{w}{M} \times RT\)
に代入すると
\( \displaystyle \frac{560}{760}\times 1.0\times 10^5=\displaystyle \frac{1.84}{x}\times 8.3\times 10^3\times (273+27)\)
これを解いて \(x≒62\)
これくらいの計算をさせる問題はたくさんあります。
効率よく計算処理してくださいね。
最後にもう一度電解質の質量を求めておきましょう。
37℃のいて7.5気圧の浸透圧を示す食塩水1Lをつくるのに必要な食塩は何gか求めよ。
1気圧は \(\mathrm{1.0\times 10^5Pa}\)
気体定数は \(\mathrm{8.3\times 10^3Pa\cdot L/(K\cdot mol)}\) とする。
食塩は電離して
\( \mathrm{NaCl\rightarrow Na^++Cl^-}\)
となるので食塩の物質量の2倍の浸透圧を示します。
求める食塩の質量を \(x\)(g)とすると
電離後の総粒子(イオン)の物質量は
\( \displaystyle \frac{x}{58.5}\times 2\)
7.5気圧は \(7.5\times 1.0\times 10^5 \mathrm{Pa}\) なので
\( P=7.5\times 1.0\times 10^5\mathrm{Pa}\)
温度が37℃なので絶対温度は
\( T=273+37\mathrm{k}\)
であることに注意して状態方程式に代入すると
\( 7.5\times 1.0\times 10^5 \times 1=\displaystyle \frac{x}{58.5}\times 2 \times 8.3\times 10^3 \times (273+37)\)
これを解いて \(x\,≒\, 8.5\)(g)
これは状態方程式 \(PV=nRT\) に代入したことになっていますが、
1Lの溶液なので \(P=CRT\) に代入したことと同じです。
浸透圧に関する計算は状態方程式と同じなので式自体は立てやすいです。
計算量が多少ありますので効率よく計算していくだけですね。
気体の計算練習は
⇒ ボイルとシャルルの法則から状態方程式までのまとめと計算問題の解き方
これがクリアーできれば十分です。