酵素は生体内でおこなう代謝をしやすくするための触媒としてのはたらきをします。
構造と代表的な酵素の種類と仕組みを化学的な要素も含めてみておきましょう。
用語が多く覚えることが多いところなので、深く理解する前に簡単なメカニズムとともに先ずは用語を覚えておくと良いでしょう。

代謝と酵素のはたらき

生体内で起こる化学反応をまとめて代謝といいます。
大きく分けると分解してエネルギーを得る異化とエネルギーの元となる物質をつくり出す同化があります。
この代謝には酵素と呼ばれる物質が働いています。

自然界にある物質は安定したものが多いので変化させるためには熱などのエネルギーを与えて活性化することが必要です。
この活性化状態までのエネルギーを活性化エネルギーといいますが、活性化エネルギーを減少させる物質を触媒といます。

触媒自身は化学反応の前後で変化しません。
白金や金や酸化マンガンなどは触媒作用を持つ無機化合物で無機触媒と呼ばれます。
一方、タンパク質でできている酵素も触媒作用を持ち、これを有機触媒といます。

生体内では酵素による触媒作用で常温、常圧で化学反応が速やかに進行していて、酵素が作用する物質を「基質」、反応の結果できた物質を生成物といいます。

生体内で進む代謝は単独の反応で完結するのではなく、いくつもの反応が連続している場合が多く、普通1種類の酵素は1種類の化学反応に触媒として働くので細胞の中にはたくさんの酵素が存在しています。
一連の化学反応に関係する酵素は連続して反応が進むようにまとまって存在していることが多く、1つの反応系をつくっています。
詳しくはそれぞれの反応系の説明をしますが解糖系やクエン酸回路などが代表的な反応系です。

酵素の構造と性質

酵素の構造

酵素はタンパク質を主成分とした生体触媒ですが、タンパク質以外の有機物や金属などの補助因子を持つものもあり、その補助因子のうち低分子の有機物を補酵素といいます。
酵素は特有の立体構造をした活性部位と呼ばれる箇所を持っていて、この活性部位に基質が結合して反応が進みます。
補助因子は活性部位に結合し酵素に関係する因子のことですが、酵素によっては鉄や亜鉛などの金属が必要なものもあります。

酵素の性質

酵素と基質は結合して「酵素-基質複合体」をつくった後、生成物に分解されます。
酵素は、触媒として働くので自身は反応前後で変化せず、種類によって反応する基質が決まっています。
これを「基質特異性」といいます。

また、温度によって活性が変わり最もよく働く温度を「最適温度」といいます。
最適温度は酵素によって変わりますが30℃~40℃に最適温度があるものが多いです。
デンプンを麦芽糖に変える唾液に含まれるアミラーゼはおおよそ36℃~37℃で最適温度となり、それより低くても高くても活性は落ちます。
同じ触媒でも無機触媒は温度が高くなれば活性は上がっていくので大きな違いがありますね。

さらに酵素が最もよくはたらくpH(ピーエイチ)を「最適pH」といい、唾液のアミラーゼはほぼ中性(pH=7)、胃液中のペプシンのように胃酸があるところではたらくものは強酸性(pH=2)でよく働きます。
弱アルカリ性(pH=8)で活性を持つすい液中のトリプシンがあるように種類によってそれぞれ最適pHが存在します。

酵素反応の速さの上限

酵素の反応は、温度やpH以外に濃度によっても変わります。
基質と酵素の複合体ができて進みますので、普通の化学反応と同じように基質濃度が上がれば反応速度は上がりますが、酵素の数にも限度があるので一定以上になると反応速度は一定になります。
全ての酵素が複合体をつくっている状態ではそれ以上基質が増えても、対応する酵素がないので反応速度は上昇しないということですね。

酵素の種類

酵素にはたくさんの種類がありますが代表的なものをあげておきます。

酸化還元酵素

例:
脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ):基質から水素をうばいます。
酸化酵素(オキシターゼ):基質と酸素を結合します。
カタラーゼ:過酸化水素を水と水素に分解します。

デヒドロゲナーゼやデオキシリボ核酸(DNA)などに使われる最初の「デ」というのは「除く」「とる」という意味で使われます。

加水分解酵素

例:
アミラーゼ:デンプンを麦芽糖(マルトース)に分解します。
ペプシン:タンパク質を低分子のペプチドに分解します。
リパーゼ:脂肪を脂肪酸とモノグリセリドに分解します。
ATPアーゼ:ATP(アデノシン三リン酸)をADP(アデノシン二リン酸)とリン酸に分解します。

その他の酵素

アミノ基転移酵素(トランスアミナーゼ)
:基質からアミノ基( \(\mathrm{-NH_2}\) )をとって他の物質に移動させます。

脱炭酸酵素
:基質のカルボキシ基( \(\mathrm{-COOH}\) )を分解して二酸化炭素( \(\mathrm{CO_2}\) )を発生させます。

DNAリカーゼ
:DNAどうしを結合させます。

このほかにもたくさんの酵素があります。
基質特異性と最適pHを持っているから働く場所が決まっているといってもいいので、それぞれの反応系において詳しく見ておくと良いでしょう。


末尾に「アーゼ」(-ase)と付いているのは酵素であることが多いので覚えておくと分かり易い。
酵素自体は英語で「enzyme(エンザイム)」ですが個別の名称には「アーゼ」とつくものが多いです。

反応系で出てくるものについてはその都度説明を加えますが、ここに出てくるいくつかの用語は試験にも出やすいので必ず覚えておいてください。

主成分であるタンパク質の合成と性質は見なおしておいてくださいね。
⇒ 細胞で合成されるタンパク質の立体構造と役割および変性と失活

次は反応の仕組みを補酵素の役割とともに見ておきます。

⇒ 脱水素酵素の補酵素および競争阻害物質とアロステリック効果
酵素と補酵素では構造やはたらきが違いますよ。