アンモニアの工業的製法でハーバーボッシュ法がありますが、これはルシャトリエの原理を利用し効率良くアンモニアを生成する方法です。理由を可逆反応における温度変化と平衡の移動との関係から見てみましょう。
温度変化と平衡移動
熱化学方程式
\( \mathrm{2NO_2=N_2O_4+57kJ}\)
においてルシャトリエの原理により、圧力を加えると反応が右に進みます。
圧力を加えるとそれを打ち消す方向に反応が進む、それがルシャトリエの原理でしたよね。
ところがこの熱化学方程式で表されている反応が平衡状態にあるとすると、加熱すると吸熱反応の方向に平衡移動します。
この反応の場合、二酸化窒素(\(\mathrm{NO_2}\))が増える(赤褐色が濃くなる)方向になります。
左向きの反応が進むということですね。
このように、濃度や圧力のように増加させると減少させる(打ち消す)方向に平衡移動するルシャトリエの原理は熱(温度)においても言えるということなのです。
加熱すると吸熱反応の方向に、逆に冷やす(冷却する)と発熱反応の方向に平衡移動します。
\( \mathrm{2NO_2=N_2O_4+57kJ}\)
の場合、右に反応が進むと発熱反応となりますので、加熱すると左向きの反応が進みます。
逆に冷却すると発熱反応である右に向けて反応が進みます。(赤褐色が薄くなる。)
ここでひとつ注意が必要です。
\( \mathrm{2NO_2=N_2O_4+57kJ}\)
において加熱すると反応が左に進みます。これは間違いありません。
ただ、温度を変えるということは平衡定数も変わるということです。
この反応の平衡定数 \( K\) は
\( \displaystyle K=\mathrm{\frac{[N_2O_4]}{[NO_2]^2}}\)
となりますが、分母が左辺なので左に平衡移動すると平衡定数は急激に小さくなります。
ルシャトリエの原理を適用はできます。
平衡移動も考え方は変わりませんが、平衡定数は変わっているということを忘れないで下さい。
ハーバーボッシュ法(アンモニアの工業的製法)
窒素と水素を触媒を用いて直接アンモニアを合成する方法を「ハーバーボッシュ法」といいます。
\( \mathrm{N_2+3H_2 \rightleftharpoons 2NH_3}\)
これを熱化学方程式で表すと
\( \mathrm{N_2(g)+3H_2(g)=2NH_3(g)+92kJ}\)
となります。
これから分かることを考えてみましょう。
アンモニアが生成する方向には発熱反応となるので冷やせば反応は右に進みます。
ひとつは「冷却」すればいいということが分かります。
もう一つ、圧力を加えると総分子数の減少する方向に反応が進みますので右に反応が進みます。
「加圧」するとアンモニアが生成する方向に反応が進むということです。
つまり、ルシャトリエの原理からアンモニアの生成を多くしたければ、
「低温で高圧に」すれば良いということになります。
ここで問題点も出てきます。
低温にするとどうしても反応速度は落ちます。
この点については反応速度における活性化エネルギーの記事がありますので復習しておいて下さい。
⇒ 活性化エネルギーの求め方と触媒による活性化状態の変化
だから「低温・高圧」が良いとはいえ、あまり低温すぎても反応に時間がかかりすぎるので工業的には向かなくなります。
一方で高圧にしすぎると今度は反応装置の強度に問題が出てきます。
そこでルシャトリエの原理の登場です。w
確かに低温にすると平衡状態ではアンモニアの収率は良くなります。
しかし、低温にすると反応速度を落とすことになるので生成までに時間がかかります。
そこで高温で速く反応させて、低温状態に移し効率よく集めてしまおうというのがハーバーボッシュ法の工業的製法になるのです。
製法の流れを簡単に説明します。
先ず、原料となる窒素と水素を圧縮します。(高圧)
↓
次に500℃くらいまで加熱した触媒に触れさせて反応させます。
(触媒存在下で反応)
↓
反応後の混合気体を冷却装置に送り込み冷やす。(低温)
これでアンモニアが効率的に生成できますね。
さらに冷却装置で冷やされたアンモニアは液体となります。
これを取り除くことでさらに反応は右に進みやすくなる、というルシャトリエの原理をフル活用しているような装置で生成されているのです。
他の物質でも工業的製法は速く、収率良く、が目的なので当然といえば当然なのですが、ルシャトリエの原理を利用したものが多いです。
物理的な平衡でも成り立つ原理なので
を確認しておいて下さい。
とにかく、条件を外部から変えるとそれを打ち消す方向に反応が進むということです。