発酵とは何か、ヨーグルトやお酒の製造で良く聞く名前ではありますがここでしっかり覚えておきましょう。
いろいろな発酵がありますが乳酸発酵とアルコール発酵について反応系や化学式を説明しておきます。
ATPが不足した場合に起こる解糖についても簡単にですがまとめておきますので参考にして下さい。

発酵とは

先ずは呼吸の反応式をみて下さい。

炭水化物の1例(グルコース)
 \(\mathrm{C_6H_{12}O_6+6H_2O+\color{red}{6\,O_2} \rightarrow 6CO_2+12H_2O}\)

タンパク質の1例(ロイシン)
 \(\mathrm{2C_6H_{13}O_2N+\color{red}{15\,O_2} \rightarrow 12CO_2+10H_2O+2NH_3}\)

脂肪の1例(トリステアリン)
 \(\mathrm{2C_{57}H_{110}O_{6}+\color{red}{163\,O_2} \rightarrow 114CO_2+110H_2O}\)

これらの反応系には酸素が必要です。

一方次の反応を見てください。

 \(\mathrm{C_6H_{12}O_6 \rightarrow 2C_2H_5OH+2CO_2}\)

これも有機物(グルコース)の分解反応ですが反応系に酸素はありません。

このように有機物が酸素のない状況で分解されて、ATPを生成する過程を「発酵」といいます。
発酵では解糖系の脱水素酵素のはたらきで生じた \(\mathrm{NADH}\) は、
ピルビン酸を乳酸などに還元することで自身は酸化されて \(\mathrm{NAD^+}\) に再生されます。

乳酸発酵

ヨーグルトや漬け物をつくるときに利用する発酵です。

原核生物の一種である乳酸菌は、
解糖系の脱水素反応の結果生じた \(\mathrm{NADH}\) は、
ピルビン酸( \(\mathrm{C_3H_4O_3}\) )を乳酸( \(\mathrm{C_3H_6O_3}\) )に還元します。

 \(\mathrm{NADH}\) 自身は酸化されて \(\mathrm{NAD^+}\) に戻ります。

反応式は

 \(\mathrm{C_6H_{12}O_6 \rightarrow 2C_3H_6O_3+2ATP}\)

乳酸菌が行うこの過程を「乳酸発酵」といいます。
最終生成物の乳酸は細胞外へ放出されますが、これを利用してヨーグルトなどはつくられるのです。

解糖

筋肉などでは激しく運動をするとATPが不足するときがあります。
そのようなとき筋肉では乳酸発酵と同じ反応でグルコースやグルコースが多数結合してできたグリコーゲンを分解してATPを生成します。
この過程では筋肉に乳酸が蓄積します。
この仕組みを解糖といいます。

ヒトの体内ではグルコースを取り入れるとグリコーゲンとして肝臓に貯蓄するようになっています。

アルコール発酵

真核生物の一種である酵母では解糖系で生じたピルビン酸は、
脱炭酸酵素のはたらきで二酸化炭素がうばわれてアセトアルデヒドになり、
このアセトアルデヒドは \(\mathrm{NADH}\) によって還元され、
エタノール( \(\mathrm{C_2H_5OH}\) )になります。

このとき \(\mathrm{NADH}\) は酸化されて \(\mathrm{NAD^+}\) にもどり再利用されます。

この反応は最終的にエタノール(アルコール)を生成するので、アルコール発酵といいます。
反応式は

 \(\mathrm{C_6H_{12}O_6 \rightarrow 2C_2H_5OH+2CO_2+2ATP}\)

エタノールと二酸化炭素は最終的に細胞外へ放出されます。
この発酵がお酒の醸造などに利用されるということです。

ここで出てくる似た言葉で「解糖」と「解糖系」があります。
同じものと言えなくもありませんが、使い分けてあるので少し説明をしておきます。

多細胞生物の細胞内でグルコースなどの栄養素が、
無酸素状態で乳酸に分解されてエネルギーを得るのが「解糖」です。

全ての生物が持つ共通の代謝で、
細胞質基質で反応が進む発酵なども含め、
グルコースをいくつもの酵素を利用してピルビン酸を経由する過程を「解糖系」といいます。

まとめ

ここまでをまとめておきます。

乳酸発酵を行う生物は乳酸菌で、
反応式は \(\mathrm{C_6H_{12}O_6 \rightarrow 2C_3H_6O_3+2ATP}\)
酸素は必要としていません。

アルコール発酵を行う生物は酵母で、
反応式は \(\mathrm{C_6H_{12}O_6 \rightarrow 2C_2H_5OH+2CO_2+2ATP}\)
この発酵も酸素は必要としません。

乳酸発酵、アルコール発酵、解糖の全てに共通するのは解糖系という反応過程で、
中間生成物としてピルビン酸を生成します。

酵素を含む反応系のうち呼吸の内容は

⇒ 呼吸(解糖系・クエン酸回路・電子伝達系)で必要な酵素としくみ

で説明していますので確認してください。