電池は自発的に起こる酸化還元反応から電流を取り出すことでしたが、逆に強制的に電解質水溶液に直流電流を流すと電気分解を起こします。この電気分解の陰極と陽極ではどのような酸化還元反応が起こるのか見ていきましょう。

電気分解

電解質の水溶液や融解液に2本の電極を入れ、直流電流を流すと各電極で化学変化が起こります。
この酸化還元反応を電気分解といいます。

この電気分解で起こる反応は電池の各極で起こる変化と逆になります。

電気分解で直流電流や電池の正極につないだ方を陽極といい、
負極につないだ方を陰極といいます。

陽極での反応

水溶液中の陰イオンや水分子が電子を放出する酸化反応が起こります。
このとき最も酸化されやすい陰イオンから酸化されていくので、
塩化物イオンや臭化物イオンやヨウ化物イオンなどの単原子イオンであるハロゲン化物イオンがあれば先に酸化されます。

電子の放出のしやすさは、

 \( \mathrm {Cl^-} >  \mathrm {H_2O} > \mathrm {NO_3^-} , \mathrm {SO_4^{2-}}\)

となります。

水溶液中に塩化物イオン(\( \mathrm {Cl^-}\))がある場合、

 \(2\mathrm {Cl^-} → 2\mathrm {e^-} + \mathrm {Cl_2}\)

水溶液中に、硝酸イオン(\(\mathrm {NO_3^-}\))や 硫酸イオン(\(\mathrm {SO_4^{2-}}\))がある場合は水分子が電子を放出し酸素を発生します。

 \(2 \mathrm {H_2O} → 4\mathrm e^- + 4\mathrm {H^+} +  \mathrm {O_2}\)

電気分解というと水素(陰極)と酸素(陽極)というイメージがあると思いますが、
ハロゲンがある場合は陽極では酸素では無くハロゲン分子の気体が発生するので注意して下さい。

陰極での反応

水溶液中の陽イオンや水分子が電子を受け取る還元反応が起こります。

水分子中の水素イオンが電子を受け取るか、違うイオンが電子を受け取るかイオン化傾向を見ると分かり易いです。
水溶液中に水素よりイオン化傾向の小さい金属がある場合その金属が還元されます。

水溶液中に水素よりイオン化傾向の小さい銅(Ⅱ)イオン(\(\mathrm {Cu^{2+}}\))がある場合、

 \( \mathrm {Cl^-} + 2 \mathrm {e^-} →  \mathrm {Cu}\)

水溶液中に水素イオンよりかなりイオン化傾向の大きいイオンがある場合、
例えば、
 \( \mathrm {K^+} , \mathrm {Ca^{2+}} , \mathrm {Na^{+}}\)
があると、
水分子が電子を受け取り水素を発生する還元反応が起こります。

 \(2\mathrm {H_2O} + 2\mathrm {e^-} → 2 \mathrm {OH^-} + \mathrm {H_2}\)


イオン化傾向の大きい方から \(\mathrm {Al^{3+}}\) までは水素が発生すると覚えておきましょう。

※イオン化傾向の中程度のイオンがある場合、
例えば \(\mathrm {Zn^{2+}} , \mathrm {Fe^{2+}}\) があるときは、
水素イオンの濃度によっては金属が電子を受け取り還元され析出(せきしゅつ)します。

水素イオンが電子を受け取るのがはやいか金属イオンが電子を受け取るのがはやいか、競争が起こるのです。
だから、この中途半端なイオン化傾向の金属が水溶液中にあるものは問題にはならない、と考えておいて良いでしょう。笑
化学的にもっと深く勉強したい人は、詳しく書いてくれている参考書や学校の先生に聞いて勉強して下さい。ここでは基本的な要点だけにしておきます。

電気分解の要点

電気分解を行うと、
 陽極では電子を放出する酸化反応が起こる
 陰極では電子を受け取る還元反応が起こる
ということです。

電気分解の例

水(イオン活傾向の大きい金属を含む場合も)
陽極
 \(4 \mathrm {OH^-} → 4\mathrm {e^-} + 2 \mathrm {H_2O} +  \mathrm {O_2}\)
陰極
 \(2 \mathrm {H_2O} + 2\mathrm {e^-} → 2\mathrm {OH^-} +  \mathrm {H_2}\)

塩化ナトリウム(\(\mathrm {NaCl}\))水溶液
陽極
 \(2\mathrm {Cl^-} → 2\mathrm {e^-} + \mathrm {Cl_2}\)
陰極
 \(2 \mathrm {H_2O} + 2\mathrm {e^-} → 2\mathrm {OH^-} + \mathrm {H_2}\)

塩化銅(\(\mathrm {CuCl_2}\))水溶液
陽極
 \(2\mathrm {Cl^-} → 2\mathrm {e^-} + \mathrm {Cl_2}\)
陰極
 \(\mathrm {Cu^{2+}} + 2\mathrm {e^-} → \mathrm {Cu}\)


この電気分解が進むと銅イオンの青色が薄くなるので反応の進行が見て取れます。

電気分解は電池の仕組みと逆です。
いずれも酸化還元反応であることは覚えておきましょう。

酸化還元は
⇒ 酸化還元反応 定義と電子の授受
でもう一度確認しておいてください。
何度確認しても多すぎるということはありませんよ。

確認できたら

⇒ ファラデーの電気分解の法則 電気素量とファラデー定数

電気量を計算してみましょう。