ルシャトリエの原理とはどのような原理なのか?ここでは化学反応の平衡移動について見ておきますが、この原理は化学平衡だけになり立つものではありません。化学変化をともなわない普遍的な重要な原理であることを知っておきましょう。

平衡移動とは

「平行」移動ではありませんよ。「平衡」移動です。
可逆反応において平衡状態にあるとき、外部から温度や圧力や濃度などの条件を変えてやると、正反応または逆反応が進み新たに平衡状態になります。
この変化を平衡の移動、平衡移動といいます。

ルシャトリエの原理

「可逆反応が平衡状態にあるとき、外部から平衡を支配する条件である温度・圧力・濃度などを変えると、その影響を緩和する方向へ平行が移動し、新しい平衡状態になる」
もう少し簡単に言うと、
「可逆反応が平衡状態にあるとき、濃度・圧力・温度などの条件を変化させるとその影響を打ち消す方向へ平衡が移動し、新しい平衡状態となる。」
という原理をフランスのルシャトリエが1884年に発表しました。
これを「ルシャトリエの原理」または「平衡移動の原理」といいます。

この原理は化学平衡だけではなくて、気液平衡や溶解平衡などの物理平衡にも適用できる普遍的な大原則です。

濃度変化と平衡移動

可逆反応

 \( \mathrm{A_2+B_2 \rightleftharpoons 2AB}\)

が平衡状態にあるときに温度と圧力を一定に保ち、\(\mathrm{A_2}\) を加えると、
\(\mathrm{AB}\) を生成する方向に反応が進み、再び平衡状態になります。

これは \(\mathrm{A_2}\) の濃度の増加を打ち消す、つまり濃度を減少させる方向に平衡移動したと考えられます。
ただ、この場合は正反応が進むことになりますが、\(\mathrm{A_2}\) の量がもとの量より少なくなることはありません。

このように濃度を増加させるとその濃度を減少させる方向に、濃度を減少させるとその濃度を増加させる方向に平衡移動するということです。

濃度変化と平衡定数の関係

 \( \mathrm{A_2+B_2 \rightleftharpoons 2AB}\)

の平衡定数 \(K\) は

 \( K=\displaystyle \mathrm{\frac{[AB]^2}{[A_2][B_2]}}\)

で表されますが、これは温度一定なら一定の数値になるはずです。
ところがこの平衡状態にある混合気体に \(\mathrm{A_2}\) を加え濃度 \(\mathrm{[A_2]}\) だけが大きくなり、
\(\mathrm{[B_2]}\) や \(\mathrm{[AB]}\) が変わらないとすると、
分母だけが大きくなることになるので \(K\) の値は小さくなりますよね。

そこで \(K\) が一定の値になるように \(\mathrm{[A_2]}\) や \(\mathrm{[B_2]}\) が減少し、
\(\mathrm{[AB]}\) が増加する方向に平衡移動するということなんです。

もっと簡単にいうと、

 \( \mathrm{A_2+B_2 \rightleftharpoons 2AB}\)

の反応では、
左辺の \(\mathrm{A_2}\) や \(\mathrm{B_2}\) が増えると反応は右(\(\rightarrow\))に進み、
右辺の \(\mathrm{AB}\) が増えると反応は左(\(\leftarrow\))に進むということです。

このことを利用すると、溶けにくい塩や気体が生成する可逆反応では沈澱を取り除く、気体を逃がす、などの操作をするとその方向の反応がより進みやすくなります。

圧力変化と平衡移動

二酸化窒素( \(\mathrm{NO_2}\) )とその二量体である四酸化二窒素( \(\mathrm{N_2O_4}\) )には

 \( \mathrm{2NO_2 \rightleftharpoons N_2O_4}\)

という平衡が成り立ちます。(0℃~140℃くらいまで)
二酸化窒素( \(\mathrm{NO_2}\) )は赤褐色の気体で、四酸化二窒素( \(\mathrm{N_2O_4}\) )は無色の気体です。

この平衡状態にある混合気体を注射器に入れて、温度一定で注射器のピストンを押して圧力を加えると、瞬間的に赤褐色が濃くなります。(気体を圧縮したから)
しかし、しばらくすると色が薄くなります。
これは圧力を上げたという要因を打ち消す方向、気体分子の総数が減少する方向に平衡が移動したからです。
( \(\mathrm{2NO_2 \rightleftharpoons N_2O_4}\) の右向きの反応が進んだ。)

逆にピストンを引いて圧力を下げると気体分子の総数が増加する方向に平衡が移動します。
( \(\mathrm{2NO_2 \rightleftharpoons N_2O_4}\) の左向きの反応が進む。)

これは濃度を変化させると打ち消す方向に平衡が移動するのと同じですね。

注意するのは、

 \( \mathrm{A_2(g)+B_2(g) \rightleftharpoons 2AB(g)}\)

のような可逆反応で、反応しても左辺と右辺の気体分子数が変化しない場合は圧力を変えても平衡は移動しないということです。
総分子数が変わらないので圧力を変えても平衡は移動しません。
(気体分子の「係数の和」が左辺と右辺で同じ場合です。)

簡単に言えば、
圧力を上げると反応式の分子係数の和が少ない方向に反応が進み、
圧力を下げると係数の和が多い方向に反応が進む、
ということですね。

温度と平衡移動については別のところで説明しようと思いますが、
ちょっと問題形式で確認しておきましょう。

練習問題
\(\mathrm{N_2+O_2 \rightleftharpoons 2NO}\) の反応が平衡状態にあるとき
(1) \(\mathrm{N_2}\) を加える。
(2) 触媒を加える。
(3) 圧力を加える。
の操作をすると反応はどちらに進むか答えよ。

(1) \(\rightarrow\)
左辺の分子濃度を増加させることになるので右へ反応が進む。

(2) 変化無し
触媒は活性化エネルギーを下げ反応速度を大きくしますが平衡には影響しません。

⇒ 活性化エネルギーの求め方と触媒による活性化状態の変化

(3) 変化無し
反応する左辺の分子数と生成する右辺の分子数が同じなるので変化しません。

固体は平衡に関係しないということと、
ルシャトリエの原理さえ覚えておけば条件を変えるとどちらに反応が進むか分かります。

しっかり可逆反応から復習しておきましょうか。

⇒ 可逆反応と不可逆反応および化学平衡

触媒を加えても平衡移動に影響しないということを軽くしか触れていませんが忘れないで下さいね。

良く問題になるアンモニアの製法ですが

⇒ アンモニアの製法ハーバーボッシュ法(温度変化と平衡移動の利用)

平衡移動を利用して反応を進めます。