かま状赤血球貧血症やフェニルケトン尿症などの遺伝子突然変異にはDNAの遺伝情報の変化が関係しています。
DNAの遺伝情報の変化にはどのような種類があり、どのようなしくみで起こるのか見ておきましょう。
また、ゲノムの多様性と細胞に備わっているDNA修復機能についても少し触れておきます。

遺伝情報の変化

誤った複製や放射線、化学物質の影響によってDNAの塩基配列が変化することを。「遺伝子突然変異」といいます。

1つの塩基が別の塩基に置き換わることを「置換」といい、
①コドンが同じアミノ酸を指定する場合、形質変化は起こりません。
これは同じコドンという意味ではなく、コドンが違っても指定するアミノ酸が同じということがあるからです。
コドン表を参照しておいてください。
コドン64種類に対しアミノ酸は20種類だから重なるアミノ酸が存在しています。
⇒ コドン表(RNAの遺伝暗号表)の見方と使い方

②コドンが違うアミノ酸を指定する場合、形質が異なることがあります。
「異なることがある」ということは異なるとは限らないということでもあります。
アミノ酸が違っても形質までが変化するとは限らないからですね。

③コドンが終止コドンに変化する場合、形質に大きな影響を与えます。
終止コドンは翻訳を終わらせます。
ということはそれ以降のDNAは途切れるということなのでもとの遺伝情報はなくなるからです。

このように、いくつかのケースがあってコドンの指定がどうなるかによって影響が変わります。

また、
塩基が失われることを「欠失」といい、
余分な塩基が入ることを「挿入」といいます。
欠失や挿入が起こるとコドンの読み込みがずれる「フレームシフト」が起こります。

このフレームシフトによってアミノ酸配列が大きく変化し、形質に大きく影響することになります。

かま状赤血球貧血症

ヒトの遺伝子突然変異の例として「かま状赤血球貧血症」があります。
これは赤血球が酸素を放出すると鎌(かま)状(三日月の形をしていて鎌のように見える)に変形して壊れたり毛細血管を通りにくくなるため、酸素の運搬能力が低下して貧血症を起こす遺伝病です。

かま状赤血球貧血症が起こる原因は、ヘモグロビンをつくるペプチド鎖の6番目のアミノ酸が置き換わっていることです。
正常なヒトでは6番目のアミン酸はグルタミン酸ですが、かま状赤血球貧血症のヒトはバリンに置換されていることが原因です。
正常なDNAであれば「GAG」のコドンが「GTG」に置換されていて、
転写→翻訳される際に「グルタミン酸」ではなく「バリン」に変わっているということですね。

ヒトの代謝異常

ヒトの代謝異常にはフェニルケトン尿症やアルカプトン尿症やアルビノなどがあります。

フェニルケトン尿症

正常の代謝であればフェニルアラニンは遺伝子Pから合成される酵素Pによってチロシンにされますが、遺伝子Pに異常が起こり酵素Pがはたらかなくなり、フェニルアラニンが体内に蓄積して、脳に障害を与え、フェニルアラニンが尿中に排出されます。
これがフェニルアラニン尿症で、
13個のエキソンと12個のイントロンからなる遺伝子Pが、スプライシングのときに本来必要な12番目のエキソンを除去してしまうと、酵素Pが合成できなくることによって起こります。
スプラシイシングの誤りが起こるのは12番目のイントロンの最初にある塩基「CA」が「CT」に置き換わったためです。

アルカプトン尿症

アルカプトンは通常、酵素Hによって水と二酸化炭素になりますが、遺伝子Hの異常によって酵素Hが異常になるとアルカプトンが体内に蓄積してしまい、尿中に放出されることになってしまいます。
これがアルカプトン尿症です。
アルカプトン尿症の症状は小児期は現れにくく、成人した頃から関節炎や動脈弁閉鎖症や結石などの症状が出る場合があるといわれています。
安易に判断するのはよくありませんので、詳しくは医学関連の書物などで調べてください。
医師に聞いても尿症の定義や症状は変わらないのでおおよそ同じ答えが返ってくるはずです。

他にも、遺伝子Mの異常によって酵素Mが異常になると「メラニン」(黒色色素)が合成できなくなる「アルビノ」などの代謝異常があります。
正常なら酵素Mによってチロシンがメラニンとなります。

一塩基多型(ゲノムの多様性)

ゲノム中に多く見られる、同種の固体間で見られる塩基配列1個単位の違いを一塩基多型(いちえんきたけい)といいます。
一塩基多型はSNP(スニップ)とも呼ばれます。

これは置換などで塩基の1つが変化して生じるもので、指定するアミノ酸はほとんど変化しません。
だから固体の生存に影響することは少ないです。
しかし、一塩基多型は生物のゲノムに多様性を与えていると考えられていて、薬に対する抵抗力や副作用などの個人差は一塩基多型によるものであるとも考えられるので、この解明が進めば、個人に適したオーダーメイド医療などが可能になると考えられているのです。

DNAの修復

DNAは割と安定な化合物ですが紫外線や放射線や化学物質の影響で常に変化し、損傷を受けています。
しかし、
DNAの塩基配列に異常が起こった場合、
異常を起こした部分やその周辺の一部を除去した後、
正常な塩基配列に修復するしくみが細胞にはいくつも備わっています。
これをDNA修復といいます。

修復のしくみは、損傷を受けたヌクレオチドの部分やその周辺を削除し、その後修復するというのが一般的です。
これは修復に関係する酵素が損傷を受けたヌクレオチドを見つけると、その周辺の塩基が取り除かれ、DNAポリメラーゼのはたらきで相補的な塩基をもったヌクレオチドが結合され、DNAリガーゼによってヌクレオチドの切れ目が結合されて修復するということです。

DNAは放射線によって切断され損傷を受けます。
多量の放射線によって損傷を受けると修復が追いつかなくなり細胞は死滅することが多くなります。
さらに、
細胞分裂中にあるように、複製中の二重らせんがほどけて1本鎖となっているときは放射線で切断されやすくなっているので、盛んに細胞分裂を繰り返す細胞は、細胞分裂を行っていない分化した細胞よりも放射線の影響を受けやすくなっています。

がん細胞は細胞分裂を活発に繰り返すので、その特長を利用し、放射線を用いて死滅させる治療が多く行われているのです。

遺伝子について

⇒ 遺伝子の形質発現(オペロン説)と転写調節タンパク質リプレッサー

もう少し用語を加えておきましょう。