遺伝子の形質発現には構成的発現と調節的発現の2つがありますが、どちらにも共通するポイントは遺伝情報の転写にあります。
また原核生物と真核生物では転写の調節方法が違いますので見ておきます。
オペロン説とはどのような内容か、リプレッサーはどのように作用するのか確認しておきましょう。

遺伝子の発現と調節

遺伝子の発現とは、遺伝子が持っている情報がタンパク質を合成して機能することで実際に表に出てくることをいいます。
単なる情報ではなく、形となり機能するようになる、ということですね。

遺伝子発現の調節はおもに転写の開始段階を調節することで行われていて、2つのパターンがあります。

1つは構成的発現で、生存に必要な代謝に関係する酵素などを合成して発現することをいいます。
このパターンでは遺伝子の転写が常に行われています。

もう一つは調整的発現で、発生段階に応じてon(はたらく)とoff(はたらかない)が切り替わるような発現をいいます。
調節遺伝子」によってつくられる「調節タンパク質」が他の遺伝子の転写を調節するなどして制御されます。

原核生物の遺伝子の発現調節(オペロン説)

原核生物では、関連する複数の遺伝子が隣り合った転写単位である「オペロン」が存在し、調節遺伝子によって共通の制御を受けています。
これはジャコブとモノーによって提唱された考え方でオペロン説と呼ばれます。

ラクトース(乳糖)の分解に関係する補酵素の遺伝子のオペロンをラクトースオペロンといい、
この調節のしくみは、ラクトースが無い場合とある場合で変わります。

①ラクトースが無い場合
調節遺伝子がつくった調節タンパク質(リプレッサー)が抑制物質として、オペレーター(作動遺伝子)と結合し、ラクトースをグルコースとガラクトースに分解する酵素ラクターゼをつくる遺伝子の転写を止めています。

ラクトースオペロンのようにリプレッサー(制御因子)と呼ばれる調節タンパク質が転写を制御する調節は「負の調節」と呼ばれ、逆に活性化因子とよばれる調節タンパク質が転写を促進する調節は「正の調節」と呼ばれます。

②ラクトースがある場合
調節遺伝子がつくった調節タンパク質にラクトースが結合し、調節タンパク質がオペレーターから離れます。
すると、RNA合成酵素のRNAポリメラーゼがプロモーターの部分に結合しラクターゼを合成する転写領域の転写が始まり、ラクターゼが合成されてラクトースが分解されるようになります。

プロモーターとは転写の目印となる塩基配列のことです。

真核生物の転写調節

真核生物でも生存に必要な遺伝子は常に転写されており、構成的発現は常に発現しています。
調節的発現は、1つの遺伝子の発現について複数の転写発現を調節するしくみを持っていて、環境に応じた調節が行われます。

DNAの転写で合成されたRNAには、mRNA、tRNA、rRNAの他にも小さなRNAがあります。
これがmRNAに結合して翻訳を妨げたり、酵素として作用してmRNAを分解したりする現象を「RNA干渉」といいます。

真核生物のRNAポリメラーゼは基本転写因子とともに転写複合体をつくり、プロモーターに結合して転写を調節します。
また、調節タンパク質であるリプレッサーなどの転写調節因子も転写複合体に作用して転写を調節しています。

染色体の構造と遺伝子発現

真核生物のDNAはヒストンに巻き付いてクロマチン繊維をつくっています。
これが高次に折りたたまれた「ヘテロクロマチン」密集部分では転写されにくく、緩んだ「ユークロマチン」状態では転写されやすくなっています。
染色体はこのクロマチン繊維が最も折りたたまれた状態です。

細胞の分化と調節遺伝子

多細胞生物では、ある調節遺伝子がつくった調節タンパク質が次の調節遺伝子の発現を調節することがあります。
この繰り返しで細胞は分化します。

この調節遺伝子にホメオティック突然変異と呼ばれる突然変異が起こるとさまざまな突然変異体が生じることになります。

ホルモンによる遺伝子発現の調節

ハエやカなどの「だ腺染色体」に見られる「パフ」の位置は発生が進むにしたがって変化します。
昆虫に見られる内分泌腺の前胸腺から分泌される「エクジステロイド」を注射するとパフの位置が幼虫型から蛹(さなぎ)型に変化して、幼虫の蛹化が始まります。
これはエクジステロイドが細胞内の受容体と結合して複合体を形成し、
調節タンパク質と同様にDNAの調節領域に結合し、
転写を調節しているからです。

大切な用語をまとめておきます。

オペロン説では、オペレーター(作動遺伝子)に結合して転写を止めるものをリプレッサー(調節タンパク質)という。
エクジステロイドは、遺伝子発現の転写の段階を調節することで形質発現を調節している。

形質発現の調節は、転写の段階で行われているということが重要ですね。

転写と翻訳については
⇒ RNAの構造と塩基および転写(スプライシング)と翻訳(コドン)のしくみ
を参考にしておくと良いでしょう。

次は遺伝子組み換えについて少し見てみます。

⇒ バイオテクノロジー(遺伝子組み換えとDNAの増幅と解析)

遺伝子組換えは食品にも多く行われています。
食品は体内に取り込むものなので人ごとではありませんよ。