胚の将来の予定運命である原基分布図と胞胚期における中胚葉誘導と誘導の作用を持つ形成体について簡単にまとめておきます。
専門用語が多いので理解することも大事なのですが先ずは用語を覚えましょう。
また誘導が誘導を引き起こす、誘導の連鎖も問題にされやすいのでチェックしておいてください。

原腸胚初期の原基分布図

正常な発生においてある組織や器官が形成されるとき、組織や器官に発達する前の細胞の集まりを「原基」といいます。
フォークトは、イモリの初期原腸胚の表面を無害な色素で局所的に染め分けて、胚の各部の発生過程を追跡しました。

このような実験の方法を「局所生体染色法」といいます。
フォークトは胚の各部分の、将来分化してどの組織となるのかを予定してある「予定運命」を「原基分布図」にまとめました。

シュペーマンは、イモリの「初期原腸胚」を使って交換移植実験を行いました。
「予定神経域」の一部を「予定表皮域」に、
「予定表皮域」の一部を「予定神経域」に交換移植すると、
移植片は移植された場所に応じて分化しました。

これは、「初期原腸胚」では移植された「先」の予定運命にしたがった、ということです。

次に、「初期神経胚」を使って同じような実験をしたところ、
移植片は「元」の予定運命にしたがって分化しました。

これは、「初期神経胚」では移植される「前」の予定運命にしたがった、ということになります。

簡単にまとめると、
イモリの胚において外胚葉の発生運命は、
「初期原腸胚」ではまだ決まっていなくて、
「初期神経胚」には決定している、
ということです。

さらに、原口背唇部を胚の色の異なる別のイモリの胞胚期の胞胚腔に移植すると、
原口背唇部そのものは、脊索や体節の一部に分化するとともに、接する外胚葉にはたらきかけて神経管を形成し、胚の腹側にもう一つの胚である「二次胚」を形成しました。

原口背唇部とは、原口の動物極寄りの場所を指していて原腸形成のときに胚内部に陥入して、接する外胚葉を神経管に分化させます。

誘導と形成体のはたらき

中胚葉誘導の実験

イモリの「胞胚期」の胚を、
 A:動物極側の領域
 B:動物極側と植物極側の両脇の領域
 C:植物極側の領域
の3つの領域に分けてそれぞれを培養すると、
 Aの領域であるアニマルキャップという領域は、外胚葉に、
 Bの領域は、外胚葉、中胚葉、内胚葉に、
 Cの領域は、中胚葉になりました。

また、切除した領域AとCを接着して培養すると、
(これはアニマルキャップに予定内胚葉の部分を接着させて培養しているということですが、)
予定される外胚葉組織と内胚葉組織に加え、中胚葉組織の脊索、体節、側板などが分化しました。

このことから、予定内胚葉域が予定外胚葉域を中胚葉性の組織に誘導することが明らかになりました。
このような現象を「中胚葉誘導」といいます。
繰り返すと、
中胚葉誘導とは、予定内胚葉域が予定外胚葉域を中胚葉に分化させるはたらき、のことです。

中胚葉誘導と背腹軸の決定

アフリカツメガエルでは、精子の進入によって卵の表層が約30°回転する「表層回転」が起こります。

これによって精子進入点の反対側に灰色三日月環ができ、将来の背側となります。

植物極端の表層にはデシュベルドタンパク質が入った顆粒が存在していて、この顆粒は表層回転によって灰色三日月環の部分に移動します。
受精卵にできた灰色三日月環の位置と、原腸胚初期の原口背唇部の位置は一致します。

植物極付近には母性のmRNAによってつくられた「VegTタンパク質」と呼ばれる内胚葉決定因子があります。
このVegTタンパク質がないと内胚葉はできません。

また、胞胚期には拝全体に \(\beta\) カテニンというタンパク質が広がって分布していますが、次第に分解されはじめます。
ただし、デシュベルドタンパク質を含む灰色三日月環の部分ではこの分解がおさえられるので、\(\beta\) カテニンの濃度が高くなります。

\(\beta\) カテニンとVegTタンパク質の濃度は、
中胚葉誘導因子をつくる「ノーダル遺伝子」のはたらきを調整します。

\(\beta\) カテニンの濃度が高いほどノーダル遺伝子は強くはたらき、ノーダルタンパク質を多くつくります。
その結果、\(\beta\) カテニンの濃度に対応するようにノーダルタンパク質の濃度勾配ができ、
ノーダルタンパク質の濃度が低い内胚葉域と接する部位は「腹側」中胚葉に分化し、
ノーダルタンパク質の濃度が高い部位は「背側」中胚葉に分化します。

神経誘導

原腸胚初期に、原口背唇部を形成する部分は陥入して中胚葉となり、予定外胚葉域を裏打ちするようになります。
このとき予定外胚葉は神経へと誘導され、これを「神経誘導」といいます。

原口背唇部自身は脊索などの中胚葉組織に分化します。

このように誘導作用を持つ部分を「形成体」または「オーガナイザー」といいます。

神経誘導のしくみ

予定外胚葉であるアニマルキャップの細胞はBMPというタンパク質を分泌します。
BMPは‘bone morphogenetic protein’(boneは骨を意味します)で、骨形成因子です。
このBMPを受容した組織は表皮への分化を起こす遺伝子がはたらいていて、表皮となります。

一方で、形成体は「コーディン」や「ノギン」などのタンパク質を分泌します。
コーディンやノギンはBMP受容体と結合して、
BMPが細胞に受容されるのを阻害します
阻害された細胞は表皮には分化できなくなり、神経に分化する遺伝子がはたらいて神経に分化します。

誘導の連鎖

誘導によって形成された気管や組織が、新たな形成体となって次々と誘導を行っていくことを「誘導の連鎖」といいます。

例として「目」の形成を見てみましょう。

原口背唇部により誘導された「神経管」は前方がふくらんで脳になります。
やがてその脳の一部は左右にふくれ出て「眼胞」となり、
その先端がくぼんで杯状の「眼杯」となります。
さらにその眼杯は表皮から「水晶体」を誘導し、できた水晶体によって「角膜」が誘導されます。

図ではなく用語で流れを書いて見ます。

赤道付近の細胞 → (内胚葉による誘導)→ 原口背唇部 → 脊索
外胚葉 → (原口背唇部による誘導) → 神経管 → 眼胞 → 眼杯 → 網膜
表皮 → (眼杯による誘導) → 水晶体(レンズ)
表皮 → (水晶体による誘導) → 角膜

のように連鎖しているのです。

細胞死と器官形成

動物の細胞は発生の過程において分化だけでなく、
特定の時期にある細胞群が死んでいき、
それによって器官が形成されていくことがわかっています。
細胞がはたらきを失い死んでいくことを細胞死といいますがいくつか見ておきましょう。

 プログラム細胞死 

発生の段階から一定の時期になると、
特定の細胞が死ぬようにあらかじめ決定されている細胞の死を、
プログラム細胞死」といいます。

 アポトーシス 

ミトコンドリアなどの細胞小器官の変化は見られませんが、
核が壊れてDNAが断片化して起こる細胞死を「アポトーシス」といいます。
このアポトーシスは動物の正常な発生や生物の形態維持にとって重要なしくみの1つです。

例えば、
オタマジャクシの変態時における尾の消失があります。
また、人の発生の初期には手の指の間に水かきのようなものがありますが、
この部分にアポトーシスが起こり、人の手の指の形に形成されます。

 壊死(えし) 

プログラムされた細胞死と違い、
細胞の膨大化が起こり細胞内容物などが放出されて死ぬ細胞死を「壊死」といいます。
壊死した細胞の周辺では放出された物質によって炎症などが起こります。

iPS細胞

胚の原基分布図とフォークトやシュペーマンの実験からもわかるように、
個体発生とともにはたらく遺伝子が調節されて細胞の分化が起こり、
分化が進んだ動物細胞は分化の全性能を示さないことが多くなります。

中山先生(京都大学の中山伸弥教授)のチームは、
分化した動物細胞にES細胞の初期化遺伝子を4つを選んで、
ウイルスベクターにより導入することで、
分化が進んだ細胞から、分化の全性能を持つ細胞の作成に成功した。
これがiPS細胞です。

2006年に成功し、2012年ノーベル生理学・医学賞をしています。

まとめ

ちょっと用語が多く出てきましたのでまとめます。

・アニマルキャップを神経にするはたらきを持った組織を形成体という。
・形成体の作用を示すのは初期原腸胚の原口背唇部である。
・目の構造のように誘導が次々と繰り返されることによって形成されることを誘導の連鎖という。
・目の構造において、眼杯は水晶体(レンズ)を、水晶体は角膜を誘導する。
・DNAの断片化が起こるプログラムされた細胞死をアポトーシスという。
・細胞内容物が放出されたりする細胞死を壊死という。

用語が多いので、
中胚葉誘導と誘導の連鎖を優先して覚えていくと良いです。

⇒ 卵割の種類と体細胞分裂との違いおよびウニとカエルの発生の違い

カエルの発生は復習しておいた方が良いですね。