一橋大学の数学過去問2016年の第2問の解説です。
数列の漸化式と三角関数の融合問題と言って良いのでしょうか。
必要条件から十分性を調べるという証明問題ともいえます。
いろいろな方法があるとは思いますが、必要条件を出すまでの作業によって多少時間に違いが出るでしょう。

本試験の過去問を解くということはあまりしないのですが、
加法定理まで覚えていれば倍角、3倍角は覚えなくて良いというほどの計算をしてみました。

 \(\theta\) を実数とし、数列 \(\{a_n\}\) を

 \(\displaystyle a_1=1 , a_2=\cos\theta , a_{n+2}=\frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\\ \\
(n=1\,,\,2\,,3,\cdots)\)

により定める。
 すべての \( n\) について \( a_n=\cos(n-1)\theta\) が成り立つとき,\( \cos\theta\) を求めよ。

注目すべきは「すべての \( n\) について」という部分ですね。

「すべて」で成り立つなら \( n=1\,,\,2\,,\,3\,,\,\cdots\) で成り立つはずです。

条件を整理しておきましょう。

一般項は

 \( a_n=\cos(n-1)\theta\)

これが漸化式

 \( a_{n+2}=\displaystyle \frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\)

を成立させている。
また、問題にも書いてありますが、

 \( a_1=1\,,\,a_2=\cos\theta\)

です。

では、\( n=3\) 以降はどうなっているのか?

一般項 \( a_n=\cos(n-1)\theta\) から

 \( a_3=\cos(3-1)\theta\\ \\
=\cos 2\theta\\ \\
=2\cos^2\theta-1\)

倍角の公式

 \( \cos 2\theta=\cos(\theta+\theta)\\ \\
=\cos^2\theta-\sin^2\theta\\ \\
=\cos^2\theta-(1-\cos^2\theta)\\ \\
=2\cos^2\theta-1\)

を使っています。

これが漸化式を成り立たせているとすれば
 
 \( a_3=\displaystyle \frac{3}{2}\,a_2-a_1\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 2\cos^2\theta-1=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos\theta-1\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 4\cos^2\theta-2=3\cos\theta -2\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 4\cos^2\theta-3\cos\theta =0\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} \cos\theta(4\cos\theta-3)=0\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} \cos\theta=0\,,\,\displaystyle \frac{3}{4}\)

この値は答の候補でしかありませんがこのどちらかは答になります。
両方ダメなら「解なし」です。

次に \( n=4\) も見ておきましょう。
後でやってみますが、ここで場合分けすることもできます。
どっちでも良いです。

天才的に解法が思い浮かぶなら別ですが、凡人の私たちにとって、きれいな解法などいきなり出てくるものではありません。
模範解答のような解答が試験会場で書けるのは一部の人だけです。

と言っているうちに関係式を忘れました。笑

 \( a_n=\cos(n-1)\theta\)

 \( a_{n+2}=\displaystyle \frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\)

です。

 \( a_4=\cos 3\theta\\ \\
=\cos(2\theta+\theta)\\ \\
=\cos 2\theta \cos\theta-\sin 2\theta \sin\theta\) 

ちょっと計算するのが嫌なので、w
先に関係式を出しておきます。
漸化式から

 \( a_4=\displaystyle \frac{3}{2}\,a_3-a_2\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} \cos 2\theta \cos\theta-\sin 2\theta \sin\theta =\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos 2\theta-\cos\theta\)

あ、計算しないとダメみたいです。

 \( \cos 2\theta \cos\theta-\sin 2\theta \sin\theta =\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos 2\theta-\cos\theta\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} (2\cos^2\theta-1)\cos\theta-2\sin\theta\cos\theta\sin\theta=\displaystyle \frac{3}{2}(2\cos^2\theta-1)-\cos\theta\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 2\cos^3\theta-\cos\theta-2\sin^2\theta \cos\theta =3\cos^2\theta-\displaystyle \frac{3}{2}-\cos\theta\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 4\cos^3\theta-2\cos\theta-4\sin^2\theta \cos\theta =6\cos^2\theta-3-2\cos\theta\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 4\cos^3\theta-2\cos\theta-4(1-\cos^2\theta) \cos\theta =6\cos^2\theta-3-2\cos\theta\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 4\cos^3\theta-2\cos\theta-4\cos\theta+4\cos^3\theta =6\cos^2\theta-3-2\cos\theta\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 8\cos^3\theta-6\cos^2\theta-4\cos\theta+3=0\) 

この計算をやっているうちに場合分けに逃げたくなりましたが、
ここまでやったら最後までやっておくことで「部分点が狙える」気がするのであきらめず進めます。
たぶん試験会場ではここまではできるはず。

 \( 8\cos^3\theta-6\cos^2\theta-4\cos\theta+3=0\\ \\
\hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} (4\cos\theta-3)(2\cos^2\theta-1)=0\)

これを満たす中で \(n=3\) の場合も満たすのは

 \( \cos\theta=\displaystyle \frac{3}{4}\)

のみです。
答の可能性があるのはこの値しかありません。
つまりこれが必要条件ですね。

後はこの値に対し一般的に成り立つこと(十分性)を示します。

 \( \cos\theta=\displaystyle \frac{3}{4}\) 

のとき漸化式の両辺を計算すると

左辺は 

 \( a_{n+2}\\ \\
=\cos(n+1)\theta\\ \\
=\cos(n\theta+\theta)\\ \\
=\cos n\theta\cos\theta-\sin n\theta\sin\theta\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{4}\,\cos n\theta-\sin n\theta\sin\theta\)

右辺は

 \( \displaystyle \frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\cos(n-1)\theta\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\cos(n\theta-\theta)\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-(\cos n\theta\cos\theta+\sin n\theta\sin\theta)\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\cos n\theta\cos\theta-\sin n\theta\sin\theta\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\displaystyle \frac{3}{4}\,\cos n\theta-\sin n\theta\sin\theta\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{4}\,\cos n\theta-\sin n\theta\sin\theta\)

よって

 \( a_{n+2}=\displaystyle \frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\)

が成り立つので十分。
答は

 \( \underline{\cos\theta=\displaystyle \frac{3}{4}}\)

さて、解答をまとめる段階にあるとして

 \( \cos\theta=0\,,\,\displaystyle \frac{3}{4}\)

に絞れた時点で場合分けしてみます。

漸化式の両辺に一般項を代入した

 \( a_{n+2}\\ \\
=\cos(n+1)\theta\\ \\
=\cos(n\theta+\theta)\\ \\
=\cos n\theta\cos\theta-\sin n\theta\sin\theta\)

 \( \displaystyle \frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\cos(n-1)\theta\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\cos(n\theta-\theta)\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-(\cos n\theta\cos\theta+\sin n\theta\sin\theta)\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\cos n\theta\cos\theta-\sin n\theta\sin\theta\)

までは先程と同じですが、

ⅰ) \( \cos\theta=0\) のとき

 \( a_{n+2}\\ \\
=\cos n\theta\cos\theta-\sin n\theta\sin\theta\\ \\
=-\sin n\theta\sin\theta\)

 \( \displaystyle \frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\cos n\theta\cos\theta-\sin n\theta\sin\theta\\ \\
=\underline{\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta}-\sin n\theta\sin\theta\)

 \( n=1\) のときは成り立つ。

 \( n=2\) のとき

 \( \cos 2\theta=2\cos^2\theta-1=-1\)

なのですでに漸化式は成り立たないので不十分。
よって

 \( \cos\theta\neq 0\)

左辺と右辺を見比べると、すべての \( n\) で成り立つには、

 \( \underline{\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta}=0\)

であることが条件になりますが、

 \(\cos\theta=0\) のとき

 \( \cos 2\theta=2\cos^2\theta-1=-1\)

なので十分性がないことが示せました。

ⅱ) \(\displaystyle \cos\theta=\frac{3}{4}\) のとき

 \( a_{n+2}\\ \\
=\cos n\theta\cos\theta-\sin n\theta\sin\theta\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{4}\cos n\theta-\sin n\theta\sin\theta\)

 \( \displaystyle \frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{2}\,\cos n\theta-\displaystyle \frac{3}{4}\cos n\theta-\sin n\theta\sin\theta\\ \\
=\displaystyle \frac{3}{4}\,\cos n\theta-\sin n\theta\sin\theta\)

よって漸化式

 \( a_{n+2}=\displaystyle \frac{3}{2}\,a_{n+1}-a_n\)

はすべての \(n\) で成り立ちます。

結果、\( n=4\) のときを調べるより、
場合分けにいった方が楽だったのですが確実に答を出すにはどちらでも良かった、

と思いたいです。

3倍角の公式をダイレクトに使えば大した計算にはなりませんしね。

ちなみに十分性は数学的帰納法でも示せます。

いろいろな道筋を用意してくれているということですので、
これしかないと思わずいろいろと試して見るとたどり着くかもしれませんよ。

覚えておかなければ全く通用しないのは加法定理です。

⇒ 三角関数の加法定理と計算問題の解き方

必ず覚えておきましょう。