数学的帰納法という証明方法が数列の単元にあります。
この証明方法は流れが決まっています。
等式にも不等式にも使える方法ですが、ここでは等式が成り立つことを証明する仕方を例題を上げて解答の流れを解説しておきます。
不等式はちょっとした工夫が必要になるので別に取り上げることにします。
数学的帰納法とは?演繹法との違い
数学的帰納法とは、数学に帰納法を利用して一般的な法則を推測する(導く)ことです。
帰納法とは、具体的ないくつかの例から、一般的な法則を推測することをいいます。
演繹(えんえき)法の逆です。
演繹的な問題解決はいつもやっている公式から答えを出す、
という一般的な論理(公式)から特殊(具体的)な答えを導きだすことです。
演繹法について難しい話はしません。
「数学的帰納法により」と解答上に示すことはあっても「演繹法により」とは書かないです。
だから難しい定義は必要ありません。
ところで、
『数学的帰納法』と聞くと拒否反応を示す人いませんか?
学校の授業では何となくしか理解できなかったかもしれません。
なかなか時間をかけてくれないですからね。
しかし、H25年度センター試験で帰納法が出題されたことによって多少は変わる可能性はありますよ。
もちろん共通テストになっても変わりません。
とにかく、何十年と続いてきたセンター試験です。
同じ問題、分野、項目だけを出し続けるなんてことはしないでしょう。
不得意分野、項目のないように、もう一度『総点検』し直しておくといいです。
数学的帰納法による証明の手順
帰納法はその逆、つまり具体的なものから一般的に成り立つことを示す、ことになります。
数学的帰納法の手順は、簡単に言えば
\( n=1\) のときなどの具体的にひとつ成り立つことを示し
\( n=k\) という一般的な数値で成り立つと「仮定」したとき、
次の \( n=k+1\) でも成り立てば
\( n=1\,\rightarrow \,2\,\rightarrow \cdots \rightarrow \,k\,\rightarrow \,k+1\,\cdots\)
と1から次々と順番に成り立ち、
「一般的に成立」
ということを示す方法です。
今は難しく考えて欲しくないので後にしたいのですが、
忘れるといけないので先に書いておきます。笑
ここでは \( n=1\) を示したことで \( n≧ 1\) で帰納的に成り立つことが示せていますが、
最初に示す値が \( n=3\) のときは、
後が帰納的に示せても \( n≧ 3\) で成り立つことしか示せていませんよ。
逆に言えば \( n≧ 3\) で示したいなら \( n=1\) の成立を示す必要はなく、
\( n=3\) のときの成立と、
後は数学的帰納法を使って示せば \( n≧ 3\) で成り立つことを示せている、
ということです。
いつも \( n≧ 1\) とは限りませんよ。
始める前にややこしい話をして申し訳ないです。
しかし、コツさえ掴めば等式の証明は、簡単に思えてきますよ。
不等式はちょっとした工夫が必要になりますが、いくつかやれば何となくでも慣れてくるでしょう。
ここでは等式の証明を帰納法の流れを見ながらやってみます。
等式証明に数学的帰納法を利用する例題
\( n\) を自然数とするとき、次の等式を数学的帰納法により証明せよ。
\( \displaystyle \frac{1}{2\cdot 3}+\displaystyle \frac{1}{3\cdot 4}+\cdots +\displaystyle \frac{1}{(n+1)(n+2)}=\displaystyle \frac{n}{2(n+2)}\)
数学的帰納法を難しく考えないでくださいね。
要は、\(\,n=k\,\)のとき
\( \displaystyle \frac{1}{2\cdot 3}+\cdots +\displaystyle \frac{1}{(k+1)(k+2)}=\displaystyle \frac{k}{2(k+2)}\)
が成り立つと仮定すると、
左辺の次に足される項
\(\hspace{10pt}\displaystyle \frac{1}{(k+2)(k+3)}\)
が増えたとき、
右辺の \( \color{blue}{k}\) が \(\color{blue}{ k+1}\) と\(\,1\,\)増える
\(\hspace{10pt}\displaystyle \color{blue}{\frac{k}{2(k+2)}\,\rightarrow \,\frac{k+1}{2(k+3)}}\)
ことが示せれば良いのです。
変形するのは基本的に左辺です。
問題に戻りましょう。
\( \displaystyle \frac{1}{2\cdot 3}+\cdots +\displaystyle \frac{1}{(n+1)(n+2)}=\displaystyle \frac{n}{2(n+2)}\)
を \( n\) が自然数において成り立つことを証明するのですが、
『数学的帰納法により』
と指定があります。
指定がなければ、
\(\hspace{10pt} \displaystyle \frac{1}{2\cdot 3}+\displaystyle \frac{1}{3\cdot 4}+\cdots +\displaystyle \frac{1}{(n+1)(n+2)}\\ \\
=\left(\displaystyle \frac{1}{2}-\displaystyle \frac{1}{3}\right)+\left(\displaystyle \frac{1}{3}-\displaystyle \frac{1}{4}\right)+
\cdots +\left(\displaystyle \frac{1}{n}-\displaystyle \frac{1}{n+1}\right)+\left(\displaystyle \frac{1}{n+1}-\displaystyle \frac{1}{n+2}\right)\\ \\
=\left(\displaystyle \frac{1}{2}-\displaystyle \frac{1}{n+2}\right)\\ \\
=\displaystyle \frac{n+2-2}{2(n+2)}\\ \\
=\displaystyle \frac{n}{2(n+2)}\)
と部分分数分解することによって示すこともできますね。
指定通り、数学的帰納法によって証明しましょう。
ここからが本番です。
指定通り、数学的帰納法によって証明しましょう。
数学的帰納法の流れ
まずは、\(\,n=1\,\)のときに成り立つことを示しておきます。
順に\(\, n=2\,,\,3\,,\,4\,,\,\cdots\,\) のとき、
と繰り返すときりがないので、
一般的な数値を代表して\(\,n=k\,\)で成り立つことを「仮定」します。
その仮定を利用するのがポイントです。
仮定が正しいとすると\(\,n=k+1\,\)でも成り立つことを示せば終わりです。
やってみます。
ⅰ) \( n=1\) のとき
左辺は
\( \displaystyle \frac{1}{2\cdot 3}=\displaystyle \frac{1}{6}\)
右辺は
\( \displaystyle \frac{1}{2(1+2)}=\displaystyle \frac{1}{6}\)
で成り立つ。
ⅱ) \(n=k\) のとき
\(\displaystyle \frac{1}{2\cdot 3}+\cdots+\frac{1}{(k+1)(k+2)}=\frac{k}{2(k+2)}\) ・・・①
が成り立つと仮定する。
\( n=k+1\) のとき①の左辺は項が1つ増えて
\(\displaystyle \underline{\frac{1}{2\cdot 3}+\cdots+\frac{1}{(k+1)(k+2)}}\color{red}{+\frac{1}{(k+2)(k+3)}}\)
となりますが、①より\(\underline{\hspace{30pt}}\)部分は
\(\displaystyle\frac{k}{2(k+2)}\)
とすでに仮定している。
ここです。これを使うのです。
よって、
\( \underline{\displaystyle \frac{1}{2\cdot 3}+\cdots+\displaystyle \frac{1}{(k+1)(k+2)}}+\displaystyle \frac{1}{(k+2)(k+3)}\\
=\underline{\displaystyle \frac{k}{2(k+2)}}+\displaystyle \frac{1}{(k+2)(k+3)}\\
=\displaystyle \frac{k(k+3)+2}{28k+2)(k+3)}\\
=\displaystyle \frac{k^2+3k+2}{2(k+2)(k+3)}\\
=\displaystyle \frac{(k+2)(k+1)}{2(k+2)(k+3)}\\
=\underline{\underline{ \displaystyle \frac{(k+1)}{2(k+3)} }}\)
この \( \underline{\underline{\hspace{30pt}}}\) は
①の右辺において \(n=k\) の代わりに \( n=k+1\) を代入したものに他ならない。
「他ならない」ってなんかっこいいでしょう?
「それ以外の何ものでもない」ということです。
\( \underline{\underline{ \displaystyle \frac{(k+1)}{2(k+3)} }}=\displaystyle \frac{(\color{red}{k+1})}{2\{(\color{red}{k+1})+2\}}\)
は右辺の\(\,\displaystyle\frac{k}{2(k+2)}\,\)で
\( k\) の代わりに \( k+1\) を代入したものになっているでしょう?
これは、\( n=k\) のときの成立を仮定すれば、
\( n=k+1\) のときも成り立つことを意味します。
従って
ⅰ)ⅱ)から数学的帰納法により \( n≧ 1\) において成り立つことが証明された。(終わり)
となるのですが、 \( \underline{\underline{\hspace{30pt}}}\) をいきなり出しても意味がありません。
左辺を \( k\,\rightarrow \,k+1\) とするのは「次の項を加える」ことなので、
\(\hspace{10pt}\displaystyle \color{red}{\frac{1}{(k+2)(k+3)}}\)
を加えることです。
このように仮定を利用し左辺を変形すると、
「右辺が \( \color{red}{k\,\rightarrow \,k+1}\) となっている」
ということを示すのが目的です。
このように帰納法を使って等式を証明することは、
目的を定め、仮定を利用すれば難しくはありません。
これに対し、不等式への利用はちょっと工夫が必要です。
数学的帰納法による等式の証明問題、「仮定の左辺の変形から」やって見てください。
少しは機械的な手順で進められるようになっている、かもしれませんよ。
不等式への応用が困難だという場合は、他の項目を先に復習しておきましょう。