不等式の証明問題は大小関係の証明なので左辺と右辺の大きさを比べることになります。
グラフを使った解き方もありますがここでは式の変形で証明出来るものを取り上げて説明します。
「絶対不等式」と「絶対値のついた不等式」は違いますので確認しておいてください。
絶対不等式と条件付き絶対不等式
言葉はどうでも良いのですが、今からやろうとしていることがどういうことかは知っておいてください。
「不等式を示す」とはどういうことかを説明しておきます。
例えば、
\( x^2+1>0\) はすべての実数 \(x\) で成り立ちます。
\( x^2+y^2≧ 0\) はすべての実数 \( x,y\) で成り立ちます。
このように、すべての文字において、
どのような実数値をとっても成り立つ不等式のことを絶対不等式といいます。
習慣で「絶対」という言葉無く使われますが、
「不等式 \( A>B\) を示せ。」
という問題があれば、その不等式が絶対不等式であることを示せ、ということです。
「絶対値のついた不等式」
例えば、
「 \( |(x-1)(x+2)|>0\) を解け。」
は不等式を解くことで、「絶対不等式であることを示す」のとはそもそもの意味が違いますよ。
ただ、絶対値のついた絶対不等式はあります。w
例えば、
「 \( |a|+|b|≧ |a+b|\) 」
のような不等式は絶対不等式です。
例題は後で取り上げますが、先に「条件付き」の絶対不等式の説明をしておきます。
「すべての文字がどのような実数値をとっても成り立つ」のが絶対不等式ですが、
ある条件を満たす実数値であれば成り立つ不等式もあります。
例えば、
「 \( a>b\) ならば \(a^3>b^3\) である。」
これは、\( a>b\) という条件を満たす実数全体で成り立つことを意味します。
このように「条件付き」の絶対不等式では、
「条件を満たす任意の実数に対し、与えられた不等式が成り立つ」
ことを示すことが問題となります。
問題ではどちらも「絶対」という言葉が省略されていることが多いので、
不等式の成立を示すときは「少なくとも条件付き絶対不等式を示すこと」だと読み取ってください。
絶対不等式の証明
次の不等式を証明せよ。
\( A\,,\,B\) が実数のとき、
\(\displaystyle \left(\frac{A+B}{2}\right)^2 ≦ \frac{A^2+B^2}{2}\)
等式、不等式の証明は(左辺)-(右辺)を考えればほとんど解決します。
等式の証明の場合、
「左辺を変形 → 右辺」、もしくは「右辺を変形 → 左辺」、
が多いですが、中には、
「(左辺)→(中間)←(右辺)」
というのもあります。
しかし、不等式の証明は、ほとんどが
「(左辺)-(右辺)」または「(右辺)-(左辺)」
で解決することが多いです。
だから不等式の証明を見たら、
先ずは両辺の差を取りましょう。
ここでは、
\(\displaystyle \left(\frac{A+B}{2}\right)^2 ≦ \frac{A^2+B^2}{2}\)
において、(右辺)-(左辺)を考えてみましょう。
(大きい方から小さい方を引いたら正となるはずなので示しやすい。)
\((右辺)-(左辺)\\ \\
\displaystyle =\frac{A^2+B^2}{2}-\left(\frac{A+B}{2}\right)^2\\ \\
\displaystyle =\frac{2A^2+2B^2-(A^2+2AB+B^2)}{4}\\ \\
\displaystyle =\frac{A^2+B^2-2AB}{4}\\ \\
\displaystyle =\frac{(A-B)^2}{4}≧ 0\)
(実数 \(A,B\) において \( (A-B)^2≧ 0\) です。)
「分数では分母を1つに」は中学でも高校でも同じです。
分母を通分して、分子の計算に集中しましょう。
よって \((右辺)≧(左辺)\) なので
\(\displaystyle \left(\frac{A+B}{2}\right)^2 ≦\frac{A^2+B^2}{2}\)
が成り立つことになります。
不等式の証明では等号成立も言っておきましょう。
等号成立は \( A=B\) のとき。
相加平均・相乗平均の関係利用の不等式証明でも等号成立を忘れないように!
条件付き絶対不等式の証明
絶対不等式と何が違うかというと、条件があるので、
「条件に関する関係式を証明で使うことを忘れない」
というだけです。
\( a>b\) ならば \( a^3>b^3\) であることを示せ。
(左辺)-(右辺)を見ていくのは同じです。
\((左辺)ー(右辺)\\ \\
=a^3-b^3\\ \\
=(a-b)(a^2+ab+b^2)>0 ・・・①\)
を示せば良いのですが、
条件 \( a>b\) より \( a-b>0\) なので、
①が成り立つためには、\( a^2+ab+b^2>0\) となればいいわけです。
\( a^2+ab+b^2\\ \\
=\left(a+\displaystyle \frac{b}{2}\right)^2-\displaystyle \frac{b^2}{4}+b^2\\ \\
=\left(a+\displaystyle \frac{b}{2}\right)^2+\displaystyle \frac{3b^2}{4}≧ 0\)
この等号が成立するのは
\(\displaystyle a+\frac{b}{2}=0\) かつ \( b=0\)
つまり、\( a=b=0\) のときですが、
\( a>b\) という条件があるので等号は成立しないことが分かります。
よって、
\( a>b\) ならば \( a^2+ab+b^2>0\)
であることがいえます。
\( (a-b)>0\) かつ \( (a^2+ab+b^2)>0\)
が言えたので①は成り立ちます。
この問題でも出てきましたが
\( a^2+ab+b^2=\left(a+\displaystyle \frac{b}{2}\right)^2+\displaystyle \frac{3b^2}{4}\)
のように「(平方)+(平方)」といった変形は不等式の証明では良く使います。
強引に「平方の形にする」、と変形を試みると上手くいくかもしれませんよ。
\( a\,,\,b\,,\,c\) を実数とする。
\( a^2+b^2+c^2≧ ab+bc+ca\) を示せ。
よく見る絶対不等式です。
\((左辺)-(右辺)\\ \\
= a^2+b^2+c^2-(ab+bc+ca)\\ \\
=a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca\\ \\
\displaystyle=\frac{1}{2}(2a^2+2b^2+2c^2-2ab-2bc-2ca)\\ \\
\displaystyle=\frac{1}{2}\{(a^2-2ab+b^2)+(b^2-2bc+c^2)+(c^2-2ca+a^2)\}\\ \\
\displaystyle=\frac{1}{2}\{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2\}\)
この変形は覚える価値ありますよ。
ここで
\( (a-b)^2≧ 0\hspace{5pt},\hspace{5pt}(b-c)^2≧ 0\hspace{5pt},\hspace{5pt}(c-a)^2≧ 0\)
なので
\( a^2+b^2+c^2-(ab+bc+ca)≧ 0\\ \\
\Leftrightarrow \hspace{10pt} a^2+b^2+c^2≧ ab+bc+ca\)
また、等号が成り立つのは \( a=b=c\) のときです。
さて、このきれいな平方の形が作れないときはどうするか?
文字1つで整理することを考えましょう。
\( \color{red}{a^2}+b^2+c^2-\color{red}{a}b-bc-c\color{red}{a}\\ \\
=\color{red}{a^2}-(b+c)\color{red}{a}+b^2-bc+c^2\\ \\
\displaystyle=\left (a-\frac{b+c}{2} \right)^2-\frac{(b+c)^2}{4}+b^2-bc+c^2\\ \\
\displaystyle=\left (a-\frac{b+c}{2} \right)^2-\frac{b^2+2bc+c^2}{4}+\frac{4b^2-4bc+4c^2}{4}\\ \\
\displaystyle=\left (a-\frac{b+c}{2} \right)^2+\frac{-b^2-2bc-c^2+4b^2-4bc+4c^2}{4}\\ \\
\displaystyle=\left (a-\frac{b+c}{2} \right)^2+\frac{3b^2-6bc+3c^2}{4}\\ \\
\displaystyle=\left (a-\frac{b+c}{2} \right)^2+\frac{3}{4}(b^2-2bc+c^2)\\ \\
\displaystyle=\left (a-\frac{b+c}{2} \right)^2+\frac{3}{4}(b-c)^2≧ 0\)
とすることも可能です。
これはこれで良いですが、テキパキ処理しましょう。
とにかく、
不等式の証明では (左辺)-(右辺)です。
やることはたくさんあります。
しかし、1つひとつしか使えるようにはならないのも事実ですよ。