恒等式の定義と方程式との違いをまとめておきます。
また恒等式で良く問題にされる分数式の係数決定方法も例題を用いて説明していますので参考にして下さい。
係数決定問題の解き方は2通りありますが、どちらも定理を利用したものなので遠慮なく使って良いですよ。

等式の相等と恒等式

例えば、\( a,b\) の2つの整式

 \( A=(a-b)(a^2+ab+b^2)\)
 \( B=a^3-b^3\)

を考えたとき、分配法則、交換法則、結合法則などの演算の基本法則にもとづいて

 \( A=(a-b)(a^2+ab+b^2)\\
=a(a^2+ab+b^2)-b(a^2+ab+b^2)\\
=a^3+a^2b+ab^2-ba^2-bab-b^3\\
=a^3+a^2b+ab^2-a^2b-ab^2-b^3\\
=a^3-b^3\\
=B\)

のように2つの整式が等しいことが証明されます。

このように演算の基本法則にもとづいて等しいことが証明される2つの整式は、
 「整式として等しい
といいます。

整式 \( A , B\) が整式として等しいならば、
式 \( A , B\) に含まれている文字にどのような数値を代入しても、
 \( A , B\) の値は等しくなります。

このように、
 「式 \( A,B\) に含まれている文字に任意の(どのような)数値を代入しても、
つねに等号が成り立つとき、\( A=B\) は恒等式である。」といいます。

これが恒等式の定義です。

恒等式と方程式の違い

一方、
 \(P(x)=(x-1)(x+1)\)
において \( P(x)=0\) などの条件をつけると、
この条件を満たす \( x\) が存在ます。

この場合は、\( (x-1)(x+1)=0\) から \( x=1\) または \( x=-1\) です。

このように
 変数 \( x\) を含む等式 \( P(x)=0\) から
これを満たす「ある \( x\) 」の値を求めることを考えたとき

 \( x\) を未知数とする方程式 \( P(x)=0\)

といいます。

簡単にいえば、ある文字の式において
 「 恒等式はすべての値で成り立つ等式」
 「 方程式はある値でだけ成り立つ等式」
といえます。

問題の見分け方は、
恒等式の場合は「恒等式」と問題に書いてあったり、または「すべての値」「任意の値」で成り立つことが書かれていれば恒等式です。

方程式は「方程式」と書いてるのですぐに分かります。
また、「解け」ということが書いてあれば方程式です。
「解く」ということは「方程式を解く」ということです。

係数決定問題の解き方

恒等式の係数決定問題を解くときは定理を利用します。
定理を知らずに解いてきたかもしれませんが定理を使って解いています。

 【定理】

 \( f(x)\,,\,g(x)\) が \( n\) 次以下の整式であるとき、

 \( f(x)=g(x)\) が恒等的に成り立つ
 \( \Leftrightarrow  f(x)\,,\,g(x)\) の各次数の係数が一致する。
 \( \Leftrightarrow  f(x)=g(x)\) が異なる \( (n+1)\) 個の \( x\) の値に対して成り立つ。

多くの人が今までは「各次数の係数が一致する」ことを利用して解いてきたのではないでしょうか。
もちろんそれでもかまいません。

もう一つも知っておくと答までが早いので覚えておくと良いです。

 「 \( f(x)=g(x)\) が異なる \( (n+1)\) 個の \(x\) の値に対して成り立つ。」

とはどういうことかを証明するのは簡単ですが、必要無いので使い方だけを説明します。

例えば、
 \(a(x+1)+b(x-1)=2\)
が恒等式となるように \( a , b\) の値を定める場合、
両辺は高々(たかだか)1次です。(1次以下ということ)

この場合は異なる2つの \(x\) に対して成り立つように \( a , b\) を定めれば恒等式だといえるということです。

 \( a(x-1)(x-2)+b(x-2)(x-3)+c(x-3)(x-1)=x^2+1\)
の場合は、両辺は高々2次なので、
異なる3つの \( x\) に対して成り立つように \( a , b , c\) を定めればよいということです。

異なる数値を最高次数の数字よりも1つでも多く代入して定めれば「必要十分」なのです。

このとき代入する値は何でも良いのですが、計算しやすい値が良いですよ。
例えば
 \( a(x-1)(x-2)+b(x-2)(x-3)+c(x-3)(x-1)=x^2+1\)
の場合 \( x=1,2,3\) だと左辺に0になる部分が出てくるので早いです。

ただし、
分数式の場合はそのままでは次数が分かりませんのでちょっとだけ注意しておくことがあります。

後で説明しますので先に例題を解いて見ましょう。

分数の恒等式の係数決定問題

例題

次の恒等式が成り立つとき、定数 \( a,b\) の値を求めよ。

 \(\displaystyle \frac{x+7}{(x+1)(x+3)}=\frac{a}{x+1}-\frac{b}{x+3}\)

恒等式の係数決定問題では、左辺と右辺の各次数の係数を一致させれば良いだけです。

この問題では、左辺が決まっているので、右辺の形を左辺と同じにして、
つまり通分して、係数を比較すればおしまいです。
右辺を通分すると

 \(\displaystyle \frac{a}{x+1}-\frac{b}{x+3}\\ \\
\displaystyle =\frac{a(x+3)-b(x+1)}{(x+1)(x+3)}\\ \\
\displaystyle =\frac{(a-b)x+(3a-b)}{(x+1)(x+3)}\)

これを左辺とつなげると

 \(\displaystyle \frac{x+7}{(x+1)(x+3)}=\frac{(a-b)x+(3a-b)}{(x+1)(x+3)}\)

この等式の係数を比較して、
 左辺分子の \( x\) の係数が1なので \( a-b=1\) ,
 定数項が7なので \( 3a-b=7\) 
を満たす \( a , b\) は、\( \underline{a=3 , b=2}\) です。 

恒等式は「ある \(x\) 」について成立する方程式とは違い、
 「すべての \( x\) 」について成り立たなければない、
つまり、係数がすべて一致しなければならないので係数比較で良いのです。

「すべての \( x\) 」について成り立つのであるから、次のような解法もあります。

「すべての \( x\) 」で成り立つなら、「ある \( x\) 」でも成り立つ必要があるから、
例えば、\( x=0\,,\,-2\) のときでも成り立つ。
(計算しやすい分母が0にならない『適当な』\( x\) を選んでいいです。)

 \( x=0\) のとき、
(左辺)
 \(\displaystyle \frac{x+7}{(x+1)(x+3)}=\frac{7}{1\cdot 3}=\frac{7}{3}\)

(右辺)
 \(\displaystyle \frac{(a-b)x+(3a-b)}{(x+1)(x+3)}=\frac{3a-b}{3}\)

より
 \(\displaystyle \frac{7}{3}=\frac{3a-b}{3} \hspace{5pt} \Leftrightarrow \hspace{5pt} 7=3a-b\) ・・・①

 \( x=-2\) のとき同様に \( -5=-a-b\) ・・・②

①②から \( \underline{a=3\,,\,b=2}\)

このように求めることができます。

しかし、思い出して下さい。
定理では次数より1つ以上の値を代入していれば「必要十分」となっていました。
これは2つの場合に成り立つことしか分かっていません。
(分数式の次数は?)
つまり、必要条件でしかないので「すべて」で成り立つために、
十分性をいう必要がある」のです。

簡単です。
 \( a=3\,,\,b=2\) を代入して左辺と右辺が同じ形になることを確認するだけで良いです。

 \((右辺)\displaystyle =\frac{3(x+3)-2(x+1)}{(x+1)(x+3)}\\ \\
\displaystyle =\frac{x+7}{(x+1)(x+3)}=(左辺)\color{red}{(十分)}\)
 
実は、

 \(\displaystyle \frac{x+7}{(x+1)(x+3)}=\frac{(a-b)x+(3a-b)}{(x+1)(x+3)}\) ・・・③

が \( x\neq -1,-3\) において恒等的に成り立つことと、
両辺に \( (x+1)(x+3)\) をかけた

 \( x+7=(a-b)x+(3a-b)\)

がすべての \( x\) で恒等的に成り立つことは同値なので、
2つの \( x\) を代入した場合でも定理を利用出来るのですが、筆記試験でここまでかけるようになるにはちょっと時間がかかりますので、十分性を書いておくか、係数比較で良いです。

恒等式に限らず、『すべての』『任意の』などと書かれた問題は、この必要条件から攻めるというのは結構有効な手段ですよ。

ただ、十分性をいうのを忘れないように!

慣れるまでは、必要十分で進められるので係数比較の方が良いでしょう。
答を出すだけなら文字数の数だけ代入すればでますけどね。

恒等式は整式の中であつかわれる場合が多いです。

⇒ 整式とは?整式の最大公約数と最小公倍数の求め方

恒等式の証明そのものは等式変形で必ずできるようになっているので、
「計算が遅い」と感じている人は恒等式の項目で等式変形の練習すれば良い問題がたくさんありますよ。