三角関数で一番覚えにくい公式といえば、積を和や差に直す公式です。
もちろんその逆の和や差を積に直す公式も覚えにくいですがこちらが先でしょう。
常々言っていることですが加法定理からその場で導けば良いので覚えなくて良いです。
しかし、数学Ⅲを見すえると覚えておいた方が得策ですよね。

これがなくては始まりません。
加法定理を見ておきます。

三角関数の加法定理の確認

 \(\sin\) の加法定理

 \( \sin\,(\,\alpha+\beta\,)=\sin\alpha \cos\beta +\cos\alpha \sin \beta\)  ・・・①
 \( \sin\,(\,\alpha-\beta\,)=\sin\alpha \cos\beta -\cos\alpha \sin \beta\)  ・・・②

 \( \cos\) の加法定理

 \( \cos\,(\,\alpha+\beta\,)=\cos\alpha \cos\beta -\sin\alpha \sin \beta\)  ・・・③
 \( \cos\,(\,\alpha-\beta\,)=\cos\alpha \cos\beta +\sin\alpha \sin \beta\)  ・・・④

これだけは確実に覚えて下さい。

三角関数の積を和(差)に直す公式

 \(\displaystyle \color{red}{\sin\alpha \cos\beta=\frac{1}{2}\{\,\sin(\alpha+\beta)+\sin(\alpha-\beta)\,\}}\)  ・・・⑤

 \(\displaystyle \color{red}{\cos\alpha \cos\beta=\frac{1}{2}\{\,\cos(\alpha+\beta)+\cos(\alpha-\beta)\,\}}\)  ・・・⑥

 \(\displaystyle \color{red}{\sin\alpha \sin\beta=\frac{1}{2}\{\,\cos(\alpha-\beta)-\cos(\alpha+\beta)\,\}}\)  ・・・⑦

これが教科書に載っている形だと思います。
⑤⑥⑦を変形した次の形でも良いですよ。

 \( 2\sin\alpha \cos\beta=\sin(\alpha+\beta)+\sin(\alpha-\beta)\)  ・・・⑤’
 \( 2\cos\alpha \cos\beta=\cos(\alpha+\beta)+\cos(\alpha-\beta)\)  ・・・⑥’
 \( 2\sin\alpha \sin\beta=\cos(\alpha-\beta)-\cos(\alpha+\beta)\)  ・・・⑦’

無理をして覚えなくても良いですが、計算処理が多く覚える方が得意という人は覚えておけば良いし、覚えるのは苦手だけど、計算処理は速いという人は加法定理から導きだせば良いです。

積を和(差)に直す公式の覚え方

覚え方は語呂合わせもあるようですが、何でも良いです。

⑤の左辺を見ると加法定理の \( \color{red}{\sin(\alpha \pm \beta)}\) でしか出てこない形です。
だから加法定理を足しています。

⑥の左辺を見ると加法定理の \( \color{red}{\cos(\alpha \pm \beta)}\) でしか出てこない形です。
 \( \sin\alpha \sin\beta\) を消すために足しています。

⑦の左辺を見ると加法定理の \(\color{red}{ \cos(\alpha \pm \beta)}\) でしか出てこない形です。
 \( \cos\alpha \cos\beta\) を消すために引いて符号を合わせています。

2で割るかどうかは覚える形で違いますがすべてに共通しています。

証明

証明は加法定理を並べると簡単に終わります。

 ⑤の証明

 \( \sin\,(\,\alpha+\beta\,)=\sin\alpha \cos\beta +\cos\alpha \sin \beta\)
 \( \sin\,(\,\alpha-\beta\,)=\sin\alpha \cos\beta -\cos\alpha \sin \beta\)

これらの加法定理の両辺を加える

 \( \sin\,(\,\alpha+\beta\,)+ \sin\,(\,\alpha-\beta\,)= 2\color{red}{\sin\alpha \cos\beta }\)

 \(\displaystyle ∴  \color{red}{\sin\alpha \cos\beta}=\frac{1}{2}\{\sin\,(\,\alpha+\beta\,)+ \sin\,(\,\alpha-\beta\,)\}\)
これは⑤です。

 ⑥の証明

 \( \cos\,(\,\alpha+\beta\,)=\cos\alpha \cos\beta -\sin\alpha \sin \beta\)
 \( \cos\,(\,\alpha-\beta\,)=\cos\alpha \cos\beta +\sin\alpha \sin \beta\)

これらの加法定理の両辺を加える

 \( \cos\,(\,\alpha+\beta\,)+\cos\,(\,\alpha-\beta\,)=2\color{red}{\cos\alpha \cos\beta}\)

 \(\displaystyle ∴  \color{red}{\cos\alpha \cos\beta }= \frac{1}{2}\{\cos\,(\,\alpha+\beta\,)+\cos\,(\,\alpha-\beta\,)\}\)
これは⑥です。

 ⑦の証明

 \( \cos\,(\,\alpha+\beta\,)=\cos\alpha \cos\beta -\sin\alpha \sin \beta\)
 \( \cos\,(\,\alpha-\beta\,)=\cos\alpha \cos\beta +\sin\alpha \sin \beta\)

これらの加法定理の両辺の差を取る

 \( \cos\,(\,\alpha+\beta\,)-\cos\,(\,\alpha-\beta\,)=-2\color{red}{\sin\alpha \sin\beta}\\ \\
\Leftrightarrow  \color{red}{2\sin\alpha \sin\beta}=\cos\,(\,\alpha-\beta\,)-\cos\,(\,\alpha+\beta\,)\)

 \(\displaystyle ∴  \color{red}{\sin\alpha \sin\beta }= \frac{1}{2}\{\cos\,(\,\alpha-\beta\,)-\cos\,(\,\alpha+\beta\,)\}\)
これは⑦です。

証明終わりです。

何でこの公式があるのかというのは使ってみないとわかりませんが、
左辺の形をした部分を右辺の形に変形することにあります。

例えば

 \( 2\sin 2x\cos x\)

を⑤を用いると

 \( 2\sin 2x\cos x\\ \\
=\sin(2x+x)+\sin(2x-x)\\ \\
=\sin 3x+\sin x\)

となるのですが、「だから?」って感じですよね。

数学Ⅲでは多いに活躍する公式なのです。

ちょっとした計算練習だけでもしておきましょうか。
これは数学Ⅱの範囲でもできなければマズイ、かな?

積を和に直す公式の応用

例題

次の値を求めよ。

 \( \cos 20^{\circ}\cos 40^{\circ}\cos 80^{\circ}\)

有名角ではないので値が出そうもありません。
しかし、足したり引いたりすことで有名角を使って計算できるかもしれないのです。

順番はいろいろありますが、

 \( \cos 40^{\circ}\cos 80^{\circ}\)

から変形していきます。

 \( \cos 40^{\circ}\cos 80^{\circ}\\ \\
=\displaystyle \frac{1}{2}\{\cos(40^{\circ}+80^{\circ})+\cos(40^{\circ}-80^{\circ})\}\\ \\
=\displaystyle \frac{1}{2}\{\cos 120^{\circ}+\cos(-40^{\circ})\}\\ \\
=\displaystyle \frac{1}{2}\left(-\displaystyle \frac{1}{2}+\cos 40^{\circ} \right)\\ \\
=\underline{-\displaystyle \frac{1}{4}+\displaystyle \frac{1}{2}\cos 40^{\circ}}\)

これを元の式に戻しましょう。

 \( \cos 20^{\circ}\underline{\cos 40^{\circ}\cos 80^{\circ}}\\ \\
=\cos 20^{\circ}\left(\underline{-\displaystyle \frac{1}{4}+\displaystyle \frac{1}{2}\cos 40^{\circ}} \right)\\ \\
=-\displaystyle \frac{1}{4}\cos 20^{\circ}+\displaystyle \frac{1}{2}\,\underline{\underline{\cos 20^{\circ}\cos 40^{\circ}}}\)

次は

 \( \underline{\underline{\cos 20^{\circ}\cos 40^{\circ}}}\)

の部分に公式をもう一度利用します。

 \( \cos 20^{\circ}\cos 40^{\circ}\\ \\
=\displaystyle \frac{1}{2}\{\cos(20^{\circ}+40^{\circ})+\cos(20^{\circ}-40^{\circ})\}\\ \\
=\displaystyle \frac{1}{2}\{\cos 60^{\circ}+\cos(-20^{\circ})\}\\ \\
=\displaystyle \frac{1}{2}\left(\displaystyle \frac{1}{2}+\cos 20^{\circ}\right)\\ \\
=\underline{\underline{\displaystyle \frac{1}{4}+\displaystyle \frac{1}{2}\cos 20^{\circ}}}\)

よって

 \( \cos 20^{\circ}\cos 40^{\circ}\cos 80^{\circ}\\ \\
=-\displaystyle \frac{1}{4}\cos 20^{\circ}+\displaystyle \frac{1}{2}\,\underline{\underline{\cos 20^{\circ}\cos 40^{\circ}}}\\ \\
=-\displaystyle \frac{1}{4}\cos 20^{\circ}+\displaystyle \frac{1}{2}\left(\underline{\underline{\displaystyle \frac{1}{4}+\displaystyle \frac{1}{2}\cos 20^{\circ}}} \right)\\ \\
=-\displaystyle \frac{1}{4}\cos 20^{\circ}+\displaystyle \frac{1}{8}+\displaystyle \frac{1}{4}\cos 20^{\circ}=\displaystyle \frac{1}{8}\)

もっと簡単な問題でも良かったのですが、2回公式を使うので良い練習になると思ったのですが、書く方がきつかった。笑

 \( \cos20^{\circ}\cos 40^{\circ}\) から変形しても良いし、
見やすくするために
 
 \( \cos 40^{\circ}\cos 80^{\circ}\\ \\
= \cos 80^{\circ}\cos 40^{\circ}\\ \\
=\displaystyle \frac{1}{2}\{\cos(80^{\circ}+40^{\circ})+\cos(80^{\circ}-40^{\circ})\}\)

としてももちろんかまいませんよ。

一度試しに自分なりのアプローチでチャレンジしてみて下さい。

⇒ 三角関数の和(差)を積に直す公式の証明とその応用

積を和に直す公式とセットとなる和を積に直す公式です。

⇒ 三角関数と加法定理の要点

加法定理の基本とともに確認しておきましょう。