高校数学Ⅱの「式と証明」の要点をまとめておきます。
教科書にある基本は数学Ⅰの内容も含めて確認程度の説明にしていますが、
恒等式の係数決定など共通テストや入試問題で通用するように発展内容も加えてあります。
式と証明の内容
式と証明は数学\(\,Ⅰ\,\)と同様に他の分野にも関係する内容が多くありますので十分な練習をしておいた方が良いです。
大きく「式と計算」「等式・不等式の証明」2つに分けます。
式と計算
いくつか項目がありますが、高校生が覚える気にならないのは「2項定理」ですね。笑
パスカルの三角形で係数が出せるからといって覚えようとしないのは、
\(\hspace{10pt}2+2+2+2+2\,=\,10\)
\(\hspace{10pt}2\times 5=10\)
足し算できるからかけ算を覚えないのと同じくらい進歩しません。
3次式の展開と因数分解
文字2つの\(\,3\,\)次式の展開、因数分解の公式は6つです。
\(\color{red}{\fbox{ 展開公式 }}\)
\(\hspace{10pt}\color{red}{(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3} ・・・①\)
\(\hspace{10pt}\color{blue}{(a-b)^3=a^3-3a^2b+3ab^2-b^3} ・・・②\)
\(\hspace{10pt}\color{red}{(a+b)(a^2-ab+b^2)=a^3+b^3} ・・・③\)
\(\hspace{10pt}\color{blue}{(a-b)(a^2+ab+b^2)=a^3-b^3} ・・・④\)
\(\,②\,\)の公式は\(\,①\,\)において\(\,b\,\)の代わりに\(\,(-b)\,\)を代入したものです。
\(\begin{eqnarray}
\{a+(-b)\}^2&=&a^3+3a^2(-b)+3a(-b)^2+(-b)^3\\
&=&a^3-3a^2b+3ab^2-b^3
\end{eqnarray}\)
両方覚えておいた方が早いですが、符号に自信が持てないときは\(\,①\,\)に戻ると良いです。
これはこの公式(\(\,③④\,\)も含めて\(\,3\,\)次式)に限らず言えることです。
この\(\,24\,\)題が全て結果まで出せれば計算力(文字式の処理)は十分なものとなります。
\(\color{red}{\fbox{因数分解公式}}\)
\(\hspace{10pt}\color{red}{a^3+b^3=(a+b)(a^2-ab+b^2)} ・・・⑤\)
\(\hspace{10pt}\color{blue}{a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2)} ・・・⑥\)
この因数分解は\(\,③④\,\)の左辺と右辺を入れかえただけのものです。
もう一つ、公式があります。
文字が3つになりますが、
\(\hspace{10pt}\color{magenta}{a^3+b^3+c^3-3abc\\
\hspace{20pt}=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)}\)
この証明は結構できない人も多いので、その場で導くことは先ず無理です。
覚えて、使えるだけでいいので覚えておきましょう。
公式一覧の最後に証明しておきましたので見ておくと良いですけど、
公式は導くより、使える様になることが先で良いですよ。
ここを乗り切れたら、
因数分解が苦手という言葉は無くなります。笑
条件が比例式の等式証明
比の値、比例式という用語は中学で覚えたでしょうから省略します。
お決まりの方法を覚えてしまえば証明はそれほど難しくはありません。
条件が比例式のときの求値問題の解き方も確認しておきましょう。
二項定理と多項定理
二項定理をやる前にパスカルの三角形が先です。
知ってしまえば展開公式を覚える苦労はなくなります。
過程が変わる毎に数学ⅠとⅡを行ったり来たり忙しい項目ですが、笑
算数レベルなので数学Ⅰを学ぶ段階で知っておくと良いです。
二項定理は\(\,n\,\)次式の展開における係数をコンビネーションを使って求める方法です。
\(\color{red}{\fbox{ 二項定理 }}\)
\(\hspace{10pt}(a+b)^n=\,_n\mathrm{C}_0\,a^nb^0+\,_n\mathrm{C}_1\,a^{n-1}b^1+\cdots \\
\hspace{60pt}\cdots +\,\color{red}{_n\mathrm{C}_k\,a^{n-k}b^k}+\cdots\\
\hspace{60pt}\cdots \,_n\mathrm{C}_{n-1}\,a^1b^{n-1}+\,_n\mathrm{C}_n\,a^0b^n
\)
数列で\(\,\mathrm{\sum}\,\)の意味を覚えたら
\(\hspace{10pt}\displaystyle (a+b)^n=\sum^n_{k=0}a^{n-k}b^k\)
とできますので、総復習する場合は利用して下さい。
一般項が
\(\hspace{10pt}\,\color{red}{_n\mathrm{C}_k\,a^{n-k}b^k}\)
となることを利用して次数を決める、というのが係数決定問題の第一歩になります。
確認事項
\(\color{blue}{a^0=1}\,,\,\color{blue}{_n\mathrm{C}_0=1}\,,\,\color{blue}{_n\mathrm{C}_n=1}\)
二項定理は苦手にしている人が多いですが、覚えようとしていないだけの場合が多いです。
\(\color{red}{\fbox{ 多項定理 }}\)
\(\hspace{10pt}(a+b+c)^n\,\)を展開したときの\(\,a^pb^qc^r\,\)の係数は
\(\hspace{40pt}\displaystyle \frac{n!}{p!q!r!}\)
「ただし、\(\,p+q+r=n\,\)」という条件がありますが気にしなくて良いです。
展開したときの項はすべて満たしているはずです。
⇒ 多項定理の一般項と二項定理を利用した係数の求め方
多項定理は「研究」内容になっているようですが、二項定理の繰り返しでできることなので無視しない方が良いですよ。
共通テストでも誘導されて出題される可能性はあります。
整式の割り算
整式の割り算では剰余の定理や因数定理は扱いません。
教科書では「複素数と方程式」の分野になっています。
一気にやった方が理解が早いと思うのですが仕方ないですね。
できる人は剰余定理(余りの定理)と因数定理はまとめて復習して下さい。
ここでの定理は1つです。
\(\color{red}{\fbox{ 割り算の基本定理 }}\)
\(\hspace{10pt}f\,,g\,を\,x\,の整式とし、\\
\hspace{10pt}f\,を\,g\,で割ったときの商を\,Q\,、余りを\,R\,とすると、\\
\hspace{20pt}f=g\,Q+R\, , \,R\,はgより低次。\)
これだけです。
余りは割った次数「より」低次なので、
\(\,2\,\)次式で割れば余りは\(\,1\,\)次以下、
つまり定数になる場合もあるということだけ注意しておきましょう。
整式においても公約数、公倍数はあります。
整式の割り算は高次方程式で説明しています。
⇒ 剰余の定理(余りの定理)と因数定理の使い方と問題の解き方
「複素数と方程式」の復習でやっても良いです。
分数式の計算
分数式とは分母に文字を含む分数の式のことです。
計算の方法は算数と同じです。
文字式を扱うので因数分解して約分、というのが基本です。
\(\hspace{10pt}\displaystyle \frac{x^2-x}{x^2-1}\\
\displaystyle =\frac{x(x-1)}{(x+1)(x-1)}\\
\displaystyle =\frac{x}{x+1}\)
二行目で止めてはダメですよ。
それ以上約分できない分数を既約分数といいます。
「答えは既約分数で」と書いてある場合もありますが書いてない場合でも既約分数で答えるのが暗黙の了解です。
分数式でもそれ以上約分できない分数式を既約分数式と言うのですが、
分数式の計算処理がある場合、答えは既約分数式です。
※
途中計算は必ずしも既約分数式にする必要はありません。
続く計算処理が楽になるなら残しておいても構いません。
分数式の計算は、割り算は逆数のかけ算であることと、
\(\hspace{10pt}\displaystyle \frac{x-2}{x^2+3x}\div \frac{x^2-3x}{x^2-9}\\
\displaystyle =\frac{x-2}{x(x+3)}\times \frac{(x+3)(x-3)}{x(x-3)}\\
\displaystyle =\frac{x-2}{x^2}\)
通分することを意識しておけばほとんどの計算はできます。
\(\hspace{10pt}\displaystyle \frac{1}{x(x+1)}+\frac{1}{(x+1)(x+2)}+\frac{1}{(x+2)(x+3)}\\
\displaystyle =\frac{(x+2)(x+3)+x(x+3)+x(x+1)}{x(x+1)(x+2)(x+3)}\\
\displaystyle =\frac{(x^2+5x+6)+(x^2+3x)+(x^+x)}{x(x+1)(x+2)(x+3)}\\
\displaystyle =\frac{3x^2+9x+6}{x(x+1)(x+2)(x+3)}\\
\displaystyle =\frac{3(x^2+3x+2)}{x(x+1)(x+2)(x+3)}\\
\displaystyle =\frac{3(x+1)(x+2)}{x(x+1)(x+2)(x+3)}\\
\displaystyle =\frac{3}{x(x+3)}\)
慣れてきて、ちょっと工夫すれば消える部分ができるので
\(\hspace{10pt}\displaystyle \frac{1}{x(x+1)}+\frac{1}{(x+1)(x+2)}+\frac{1}{(x+2)(x+3)}\\
\displaystyle =\left(\frac{1}{x}-\color{red}{\frac{1}{x+1}}\right)+\left(\color{red}{\frac{1}{x+1}}-\color{blue}{\frac{1}{x+2}}\right)+\left(\color{blue}{\frac{1}{x+2}}-\frac{1}{x+3}\right)\\
\displaystyle =\frac{1}{x}-\frac{1}{x+3}\\
\displaystyle =\frac{(x+3)-(x)}{x(x+3)}\\
\displaystyle =\frac{3}{x(x+3)}\)
とすることもできますが、通分して、分子の計算に集中するで良いです。
恒等式と係数決定方法
恒等式と方程式は違います。
方程式はある\(\,x\,\)について成り立つのに対し、恒等式はすべての\(\,x\,\)について成り立つ等式を言います。
\(\color{red}{\fbox{ 恒等式とは }}\)
2つの整式\(\,\mathrm{A,B}\,\)があり、
\(\,\mathrm{A,B}\,\)に含まれる文字に任意の数値を代入しても等号が成り立つとき、
\(\,\mathrm{A=B}\,\)は恒等式である。
または
\(\,\mathrm{A,B}\,\)は恒等的に等しい。
といいます。
※
整式に限って、の話ですが整式でだけ考えておけば良いです。
このことから定理が出てきます。
一般的に言えば、
\(\,f(x),g(x)\,\)がたかだか\(\,n\,\)次の整式であるとき、
\(\,f(x)=g(x)\,\)が恒等的に成り立つ。
⇔ ①\(\,f(x)=g(x)\,\)が異なる\(\,(n+1)\,\)個の値に対して成り立つ。
⇔ ②\(\,f(x),g(x)\,\)の各次数の係数が一致する。
これは未定係数法の原理といいますが、
分かり易くいうと、
\(\color{red}{\fbox{ 恒等式の性質 }}\)
① \(\,ax^2+bx+c=a’x^2+b’x+c’\,\)が\(\,x\,\)について恒等式である。
⇔ 異なる3つの\(\,x\,\)の値について成り立つ。
② \(\,ax^2+bx+c=a’x^2+b’x+c’\,\)が\(\,x\,\)について恒等式である。
⇔ \(\,a=a’\,,\,b=b’\,,\,c=c’\,\)
②’ \(\,ax^2+bx+c=0\,\)が\(\,x\,\)について恒等式である。
⇔ \(\,a=b=c=0\,\)
となります。
恒等式の未定係数を決定するとき、
①の性質を使うと楽に答えが見つかりますが注意することもありますので見ておいて下さい。
等式・不等式の証明
等式や分数について、「成り立つことを証明せよ。」とあれば、
恒等的に成り立つことを証明するのが習慣です。
(もちろん、分数では分母は\(\,0\,\)ではないという条件付きです。)
条件付きの等式や絶対不等式の証明においても同じですので、
「恒等式」という文字がなくても恒等的に成り立つことの証明だと読み取っておきましょう。
等式の証明
\(\color{red}{\fbox{ 等式の証明方法 }}\)
①左辺を変形して右辺と同じ形にする。
②右辺を変形して左辺と同じ形にする。
③\(\,(左辺)-(右辺)=0\,\)を示す。
④左辺を変形し、右辺も同じ形まで変形する。
単純に方針を決める場合は③を多用しますが、
明らかに片方の式の形がきれいな場合は、ややこしそうな方を変形する方が楽な場合が多いです。
この単元では例題を取り上げていないので、教科書や問題集で復習しておいて下さい。
難しい問題はそれほどありませんが、比例式の等式証明などはきれいに片付くことが多いので気持ちが良いですよ。
機会があれば解説しておきます。
不等式の証明
不等式の証明でも恒等的に成り立つことを示します。
等式の場合は整式に限れば文字の値は実数でも複素数でも成り立ちます。
しかし、不等式の場合は断りがなければ文字の値は実数を表していることになります。
問題の文字は実数としてあるのが前提なのであんまり難しく考える必要はありません。
\(\color{red}{\fbox{ 不等式の基本的な性質 }}\)
① \(\,a\,>\,b\,,\,b\,>\,c\,\) ⇒ \(\,a\,>\,c\,\)
② \(\,a\,>\,b\,\) ⇒ \(\begin{eqnarray}
a+b\,&>&\,b+c\\
a-c\,&>&\,b-c
\end{eqnarray}\)
③ \(\,a\,>\,b\,,\,c\,>\,0\,\) ⇒ \(\begin{eqnarray}\displaystyle
ac\,&>&\,bc\\
\frac{a}{c}\,&>&\,\frac{b}{c}
\end{eqnarray}\)
④ \(\,a\,>\,b\,,\,c\,<\,0\,\) ⇒ \(\begin{eqnarray}\displaystyle
ac\,&<&\,bc\\
\frac{a}{c}\,&<&\,\frac{b}{c}
\end{eqnarray}\)
中学数学と重複していますが、不等号の向きが変わるときに注意しましょう。
\(\color{blue}{\fbox{ 不等式の差の性質 }}\)
⑤ \(\,a\,>\,b\,\) ⇔ \(\,a-b>0\,\)
⑥ \(\,a\,<\,b\,\) ⇔ \(\,a-b<0\,\)
不等式を証明するとき「左辺-右辺」としても不等号の向きは変わらないことを利用します。
\(\color{green}{\fbox{ 平方数(実数)の性質と大小関係 }}\)
⑦ \(\,a\,\)が実数のとき \(\,a^2\,≧0\,\)
(等号成立は\(\,a=0\,\)のとき)
⑧ \(\,a\,,\,b\,\)が実数のとき \(\,a^2\,+\,b^2\,≧\,0 \,\)
(等号成立は\(\,a=b=0\,\)のとき)
平方数が\(\,0\,\)以上であることを利用して不等式を証明します。
(例)\((a+b)^2≧4ab\,\)の証明
\(\begin{eqnarray}
(左辺)-(右辺)&=&(a+b)^2-4ab\\
&=&a^2+2ab+b^2-4ab\\
&=&a^2-2ab+b^2\\
&=&(a-b)^2≧0
\end{eqnarray}\)
よって、\((左辺)≧(右辺)\,\)
つまり、\((a+b)^2≧4ab\,\)
⑨ \(\,a>0\,,\,b>0\,\)のとき
\(\begin{eqnarray}\hspace{10pt}
a^2\,>\,b^2 &⇔& a\,>\,b\\
a^2\,≧\,b^2 &⇔& a\,≧\,b
\end{eqnarray}\)
これは正の実数においては平方数の大小も一致すると言うことです。
(例)
\(\,x>0\,\)のとき
\(\hspace{10pt}1+x>\sqrt{1+2x}\)
を証明せよ。
\(\,x>0\,\)なので両辺が正だから平方しても大小関係は分からない。
よって、
\(\hspace{10pt}(1+x)^2>1+2x\)
を示せば良い。
左辺と右辺の差を取ると
\(\hspace{10pt}
(1+x)^2-(1+2x)\\
=1+2x+x^2-1-2x\\
=x^2\,>0 (\,x\,>\,0だから)
\)
よって、
\(\hspace{10pt}1+x>\sqrt{1+2x}\)
⇒ 不等式の証明問題の解き方(絶対不等式と条件付き絶対不等式)
絶対不等式という言葉は気にしなくて良いですけど、証明方法は覚えておきましょう。
相加平均と相乗平均の関係
相加相乗平均の関係は難しいのではありません。
使い所が問題なのです。
\(\color{red}{\fbox{ 相加平均と相乗平均の関係 }}\)
\(a>0\,,\,b>0\,\)のとき
\(\hspace{10pt}\displaystyle \frac{a+b}{2}≧\sqrt{ab}\)
または
\(\hspace{10pt}a+b≧2\sqrt{ab}\)
等号成立は\(\,a=b\,\)のとき。
⇒ 相加・相乗平均の関係と不等式の最小値問題で気をつけるところ間違えていませんか?
他分野との融合でも利用されるので気をつけておきたい関係です。
⇒ 共通テスト(センター試験)数学の勉強法と対策まとめ単元別攻略と解説
定期テストや共通テストの直前には確認しておきましょう。